第48話 結婚の時期
聖女になり、王城の一室が私の部屋としてあてがわれた。
学生で寮暮らしだったので、住み込みで働けるとはありがたいわ。
街のどこかに部屋を借りないと、と思っていたところだったのよね。
マリー様が進言して下さったのかしら?
コンコンコン。
「ベル?いる?」
「居るわよ」
仕事終わりに、部屋でリラックスしていると彼の声が聞こえた。
カチャ。
ドアが開かれ、見慣れた群青色の髪の彼が現れる。
夜になると、毎晩アンディが私の部屋に訪れるようになった。
ソファに腰かけていると隣にアンディが座る。
何を話す訳でもなく、ただ一緒にいるだけ。
隣に居るだけで、心が不思議と落ち着くわ。
「アンディ、お仕事お疲れ様」
「ベルもお疲れ。慣れない仕事で大変だろう」
「ようやく慣れてきたところかな。まだ浄化魔法が上手く出来ないけれど」
「おっ、クッキーだ、いただくね!やっぱり疲れた時には甘いものだよね」
アンディは、テーブルの上に置いてある皿の上のクッキーに手を伸ばした。
もちろん、私がアンディの為に用意しておいたものだ。
私は、神官のオルデガさんに教わりながら、引き続き魔法の練習をしている。
他にはポーションを作ったりするらしい。
「もぐもぐ…浄化魔法か。聞いた事はあるけど見たことは無いな。闇を打ち払う魔法だっけ?あ、飲み物欲しいな」
「うん。アンデットとかに効くらしいけど…あと呪いの解除だっけ。ちょっと待って」
私は紅茶をティーカップに注ぐと、豊潤ないい香りが部屋中に広がった。
「ありがとう。ベルもお菓子食べようよ」
「じゃあ、少しだけ食べようかな」
茶色のクッキーを食べると、とろけるような甘みが口の中に広がった。
「そろそろ部屋に帰るね。今日もありがとベル。お陰で元気になったよ…また明日ね」
「うん。また明日」
「チュッ」
アンディは私の顔に近づいて、唇に軽くキスをした。
「おやすみなさい」
「お、おやすみなさい」
私はドキドキしながら、パタンと閉じられるドアを眺めていた。
*
「はぁ~」
「クリスタルさん。何か悩み事でも?」
「あっ、すみません。ため息なんかついて」
ゴリゴリ…。
私はミルで薬草をすり潰す作業をしていた。
どうやら回復ポーションを作っているらしい。
「ポーションって王城で作っていたのですね。てっきり他の所で作っているのかと思ってました」
「街で売っている物は王城で作った物じゃないですよ?個人の方が製造されたものです。今作っているのは王城で使う分だけで…怪我をした騎士などが使用する分ですね。あと購入するよりも自前で作った方が安く済みますからね」
「そういえば、回復ポーションって一つお幾らくらいなんですか?」
「王都だと、確か金貨1枚から5枚くらいでしたかね。品質によって異なるのですよ。もちろん王城のは上質ポーションですけどね」
オルデガさんはすり潰した薬草をビーカーの中に入れ、液体を注いでいる。
私は引き続き、薬草をすり潰していた。
そういえば、教会では薬草をすり潰して軟膏を作ったりしていたわ。
王城も教会と同じような事をやっていたのね。
「でも正直助かりましたよ。いつも一人で作っていたので。これで少しはわたくしの負担が減りますね」
「他に作る方はいらっしゃらないのですか?」
「そもそも、回復魔法を使える人が居ませんからね…一時期一般の方を雇おうかという事も考えたのですが、王城ですから中々許可が降りなくて」
王城だから制限が色々あるのかもしれない。
国の中枢を担っているのだから、慎重になって当然の事なのだろうけど。
「わたくしでは、悩み事の相談にはのれないかもしれませんが、愚痴くらいなら聞きますよ」
「婚約して3年…いつ結婚するのか知りたいと」
「オルデガさんは王城の事について詳しいでしょうし、何かご存じですか?」
話を聞きながら、オルデガは手慣れた手つきで、薬草を分けていく。
「少し休みましょうか」
仕事を中断し、隣の部屋で座りお茶を頂いた。
「アンディ殿下は今年17歳でしたっけ。結婚は少し早い気もしますが…
詳しい事は分からないので、一度、殿下に訊いてみてはいかがですか?」




