第42話 一時の平穏
寮の自室に戻ってきた。
アンディとベッドの上に座ると、またぎゅっと抱きしめられた。
「アンディ?」
「ああ、ごめん。抱きしめたくなってつい…」
私は、昨夜セレナの店に不審者が現れた出来事をアンディに話していた。
「…思っていたよりも、薬が広まっているみたい。昨日、シスターマリーが出掛けていたのも、体調が悪くなった人を治療するためにだったらしいの。大忙しだったらしいわ」
「そうだったんだ。思っていたよりも大ごとになっているんだね」
コンコンコン。
ドアが開き、寮長が顔を覗かせる。
私はアンディから離れようとしたが、彼は離してくれなかった。
「ベルさん、魔法学院が臨時休校になりました…コホン、おや殿下もいらしたのですね。それと、貴方にお客様が来てますよ」
「お客様?一体何方かしら」
寮長は、直ぐに部屋を出て行った。
私たちに気を利かせたのだろう。
「ちょっと、アンディ離れて」
「えー」
「お客様が来ているっていうから行かないと」
「しょうがない。分かったよ」
しぶしぶアンディは私から離れた。
*
応接室に行くと、祭服を着たシスターマリーがソファに座っていて、後ろには王城の騎士が立っている。
シスターの護衛なのかしら。
私が呼ばれたのだけど、当然のごとくアンディも一緒に来ていた。
「ああ、こちらの方はわたしの護衛なんですよ。わたし一人でも大丈夫なのですが、王に心配されてしまって。
ベルさん、今しがた聞きましたが、学院がしばらくお休みなんですって?よければ、明日から教会のお仕事を手伝ってもらえないかしら。
わたしはこちらの騎士と街を見回ることになっていて、教会まで手が回らないのよ。貴方が、手伝ってくれたら助かるのだけど」
シスターに、頼まれたら断れないわね。
「はい、良いですよ。ところで私、回復魔法しか使えませんけど大丈夫ですか?」
「十分よ。回復魔法を使える人は希少だからね。教会に訪れる人だけを治療してくれればいいから」
アンディは、おもむろに首にかけていたネックレスを外した。
「念のため、これをベルに渡しておくよ。何事も無いとは思うけど。お守りの魔道具なんだ。とりあえず、身に着けておいて」
緑色の石が透けてキラキラと光っている。
高そうな宝石に見える。
「キレイ…ありがとう」
「取りあえずの間に合わせだけどね。今度はきちんとしたものをあげる」
石は意外と重くてずっしりと感じる。
私はアンディに、ネックレスを首に付けてもらった。
「はぁー。わたしも殿方に宝石を頂きたいわ」
シスターが、羨ましそうな視線で私を見ていた。
*** イェスタ・アルテーン 視点
「ねえ、大事な商会を潰してしまっても良かったの?」
小屋の中にオレたちはいた。
ヴァネッサはオレに寄りかかって呟いている。
王都のはずれ、普段物置に使っている場所に移動していた。
流石に店の二階にいたら捕まってしまうからな。
「ああ、もう未練はない。金はもう十分にある。動くなら今だからな」
「そうなのね」
「もう一泡吹かせてやる。ヴェネッサ、付き合ってくれるか?」
「もちろんよ。今度は何をするのかしら?」
オレの母は、権力争いに巻き込まれ王城で殺された。
オレは幼いころから王族に復讐すると決めていたのだ。
母は、第六王子の母親を守るために殺されたらしいと、とある人が教えてくれたのだ。
「アンディ王子を手にかけても良いのだが…彼の婚約者を攫うのはどうだろう?」
肉体的ダメージより、精神的ダメージのほうが良いだろう。
「ベルとかいうあの少女ね。いいんじゃないかしら。ちょうど何処かへ移動するみたいだし」
ヴァネッサは水晶で、覗き見ている。
「どうやら教会へ行ったみたいね。聖女マリーとは別行動なのかしら。護衛もいないみたいだし都合がいいけれど」
「教会か」
信者を装って入るのは容易だ。
あるいは怪我をしたふりをして入るのも良いか。




