第39話 薬の影響
馬車から群青色の髪が見えて、私たちに声が掛けられる。
「こんな所でどうしたの?三人とも、馬車に乗って送っていくよ」
「アンディ!丁度良いところに来たわ。是非、お願いがあるのだけど」
「ベルがお願いなんて珍しいね。まあ、乗って乗って」
馬車に乗り込むと、神官のオルデガが同乗していた。
「アンディ、申し訳ないのだけど一緒にパトリックの家に行ってもらえないかしら。パトリックのお父様の体調が悪いらしくて、マリー様に治療をお願いしようと教会へ来たら不在で困っていたの。神官のオルデガ様なら治療は可能ですよね?」
「アンディ、この間話していた父上の事なのだけど…お願い出来ないだろうか」
「分かった。ではこれからパトリックの家に向かうとしよう。
オルデガ、彼は丁度話をしていたブレイスフォードの御子息だ」
「ああ、そうなのですね」
オルデガは顎に手を当てる。
「もしかして、薬の影響かもしれないな。確信は無いけど」
「「「薬って??」」」
私たちはアンディから、疲労回復薬の話を聞いた。
王城で最近飲まれているらしいとの事も。
「それ、聞いたことあるよ。最近王都で流行っているみたいだね。店のお客さんが話していたんだ。薬を飲むと何日も寝なくても平気だって」
「…すでに知らない所で広まっているのかもしれないな」
重い空気の中、馬車はパトリックの家の前に到着した。
*
「「うおおおお……」」
屋敷の廊下を歩いていると、大きなうめき声が聞こえてきた。
一同、顔を見合わせる。
「今の声って…」
「おいおい、大丈夫なのか?」
「一時的に父上に掛けた催眠魔法が切れたみたいだ。急ごう」
バタン!
急ぎ寝室へ入ると、男性が頭を抱えてうずくまっていた。
寝室には幾つかの空の薬瓶が転がっている。
「お坊ちゃま!ようやくお戻りで」
老執事が、パトリックを見て慌てて駆け寄ってきた。
「お前らは誰だ!わたしを殺しに来たのか!」
「旦那様は、困ったことにワタシどもを見ても、分からないようでして…」
「父上…」
パトリックの父親は立ち上がって、私たちを睨みつけた。
まるで目の敵がいるかのような鋭い目つきをしている。
父親は剣を抜き、上段から振り下ろした。
「オルデガ、早く解毒魔法を!」
「殿下、危ないですからお下がりください」
「「ガキィーーン!」」
アンディが剣で攻撃を防ぐ。
体格の差があるのか、長くは持ちこたえられないようで力で押されている。
『解毒魔法』
直ぐに、オルデガは呪文を唱えた。
父親はその場に崩れ落ちて意識を失う。
「どうやら、あの薬には強い幻覚作用もあるらしいですね。ピエールがわたくしたちに気が付かないなんて…」
「あの様子だと、彼は我々を敵だと思っていたようだな」
「殿下、大変申し訳ございません。どのような罰も受け入れます」
アンディに刃を向けたということは、王家に謀反をしたとみなされかねない。
パトリックが、床に頭をこすりつけ平伏している。
「顔を上げてくれ。君の所為じゃないし謝らなくていい。ブレイスフォード卿の意識が戻ったら、色々と事情を聞かせてもらう事になるがな」
*** ヴァネッサ・ピエドラ 視点
「思っていたより上手くいかないものだな」
わたくしは、水晶でアンディ殿下とその周辺を映していた。
アルト商会店舗の二階。
自室で彼らの様子を伺っていた。
「すべて上手く行ったらつまらないでしょう?」
「それもそうか」
アルト商会は臨時休業中になっている。
今後、薬を販売した所為で目をつけられるだろう。
「ところでオーナー、王都から逃げなくて良いのですか?」
「何故逃げる必要がある?何も悪い事をしていないのに」
アルテーンは悪い事をしているとは思っていないみたいね。
見つかったら捕まって牢屋行きだろう。
王族を敵に回すなんて正気ではない。
もしかしたら、彼は精神的にどこか壊れているのかしら。
一見まともそうに見えるのだけど。
「まだ、面白くなるのはこれからだよ。捕まるのはまだ早いし、何処か拠点を移そうか」
「何処へでも行きますわ」
彼となら何処までだって行けるわ。
例え地獄へでも。
わたくしも少しおかしくなっているのかもしれないわね。
正気でないアルテーンに付いて行こうとしているのだから。
彼は悪戯を楽しむ子供の様に、クスクスと笑っていた。




