第38話 アルト商会の新薬 2
*** アンディ・ロードス・ウッドストック 視点
「うおおおっ!」
「エイヤー!」
俺は学校が終わり、王城の演習場へ来ていた。
勇ましい声の騎士たちが聞こえている。
時刻は夕刻で日が落ちかけているというのに。
俺はしばらく木剣で素振りをして、ベンチで一休みしていた。
「騎士はずいぶん元気なのだな。業務はもう終わりの時間だろう?」
「殿下お疲れ様です。そうなんですよね。最近良いアイテムを手に入れたらしくて、疲労回復薬らしいのですけど。」
「へえー」
そんな薬があるんだな。
俺は首に掛けたタオルで、汗を拭いていた。
「アルト商会の商品らしいですよ。殿下もお飲みになりますか?だいぶお疲れの様ですし」
「まあ、確かに疲れてはいるがな」
アルト商会の商品か。
まさか、変な物じゃないだろうな。
以前の毒の事もあって、どうも躊躇してしまう。
「どうぞ」
欲しいとは言っていなかったのだが、騎士が親切に持ってきてくれた。
遮光性ある青いガラス瓶に入っていて、薬の色は分からない。
瓶には製品名が記載されていて、見た目は普通のポーションと変わらないな。
「後で頂く事にするよ。ありがとう」
一応受け取ってはみたのだが。
前回の事があるので、飲むのは正直怖い。
*** パトリック・ブレイスフォード(クラスメート)視点
「「ぐおおおお…」」
唸り声を聞いて驚き、僕は父の書斎へ駆けつけた。
「父上?どうなさったのですか?」
父が突然苦しそうに唸りだしている。
こんな事は初めてだ。
床には青い薬瓶が幾つか転がっていた。
散らかすなんて、几帳面の父らしくない。
僕が話しかけても、返事が無い。
「「ガシャーン…ガシャーン…」」
「「「キャアアア」」」
メイド達が驚いて引いている。
父は花瓶などを掴んで、次々に壁に投げつけていた。
陶器の破片が散らばっている。
明らかに様子がおかしい。
「父上、失礼します『催眠魔法』」
僕は覚えたての魔法で強制的に父を眠らせた。
執事のベアードが心配そうに父を見ている。
「パトリック坊ちゃま、こんな事は初めてですよ。今のうちに旦那様をベットに運びます。誰か手伝ってください」
ベアードはメイドの手を借り、父をベッドに寝かせる。
「僕は医者を呼んでくるよ。ベアード父をお願い」
医者かそれとも、教会のシスターにお願いした方が良いのか。
クラスメートの聖女、ベル・クリスタルの顔が一瞬思い浮かんだ。
「そうだ!教会には、元聖女がいる。頼んで家まで来てもらおう」
彼女は鑑定魔法も使えて、凄い人だったらしい。
今はベルに、光魔法を教える先生をしているのだ。
*
「シスターマリーは外出していますよ?何かお急ぎですか?」
教会へ行ったら、元聖女はいなかった。
催眠魔法は、持ってあと一時間くらいだ。
それまでに何とか探し出さないといけない。
「あの、具合でも悪いの?えっと、パトリックくんだっけ」
途方に暮れて、教会の前でしゃがみ込んでいたら、クラスメートのセレナから声を掛けられた。
隣には、銀髪で深い緑色の瞳のベル・クリスタル。
アンディ殿下とは一緒では無いらしい。
「実は、折り入ってクリスタル嬢にお願いがあるんだ。今から家に来てもらえないかな。父の具合が悪くなって」
「えっ?私?」
ベルは驚いて、目を丸くしている。
聖女見習いの彼女なら、何か出来るかもしれないと思ったのだけど。
「私が行ったところで何かできると思えないわ…どうしたらいいのかしら…やはりお医者様を呼んだ方がいいと思うのだけど」
足早に家に向かっていると、一台の豪奢な馬車が目の前に止まった。




