第37話 アルト商会の新薬 1
*** アンディ・ロードス・ウッドストック 視点
「はあぁーーーー」
「パトリック、でかいため息だな。どうした?」
俺は、魔法試験の頃から仲良くなったパトリックと教室で話していた。
パトリックは机に突っ伏している。
「気に障ったようならごめん。家の事を思い出しちゃってさ。普段、温厚な父の様子が少し変なんだ…ただ単純に機嫌が悪かっただけなら良いのだけど」
そういえば、パトリックの父親は王城の騎士をしていると言っていたっけ。
気を付けて見てみるか。
今日も王城で剣の練習をする予定だし。
「パトリックの家名は、ブレイスフォードだよな。夕方城に行くから、少し気にしてみるよ」
「ごめん。ありがとう」
*
「ブレイスフォードは最近変わった事ないか?」
俺は、騎士団長に声を掛けてみた。
パトリックの父は、王城の一般の騎士で普段は温厚で真面目な性格らしい。
以前、青い魔女の件の時も唯一惑わされなかったらしい。
魅了が効いていたと思うのだが、家族愛が強かったのか?
「そうですね…そういえば少し、集中力が無くて落ち着きがない様な気がします。いかが致しました?」
「気を付けて見ていてくれ。何か変わった事があれば、直ぐに報告してほしい」
ひとまず騎士団長に頼んでおくことにした。
変なことにならなければ良いのだが。
*** ピエール・ブレイスフォード(パトリックの父)視点
僕は、アルテーンに頼まれて新薬の実験台になった。
酒場での一件があったので断れるわけがない。
薬?と聞いたので怖かったが、回復薬の弱いバージョンらしい。
安価で疲労が回復する薬なのだとか。
確かに疲労は回復したみたいなのだが。
少し、イライラしている。
常に興奮状態みたいな。
昨日は、食事が不味く感じられて「とてもじゃないが、食べられたものじゃない」と皿を床に叩きつけてしまった。
普段なら、怒るほどの事ではないはずなのに。
感情が抑えられなくなってしまったのだ。
…初めての事だった。
妻は驚き、泣いていた。
アルテーンに副作用の事を言った方が良いのだろうか?
何だか、集中力も欠けている気がする。
「ピエール少し、体調が悪いのか?」
騎士団長に心配されてしまった。
「いいえ、そんな事はありません」
仕事に支障をきたすようじゃ駄目だな。
少し、眩暈がする。
「無理をするな。体調を万全にするのも仕事のうちだ。今日は早く帰って休め」
「申し訳ありません」
王城を出たところで、アルテーンと偶然出会った。
「丁度良かった。言いに行こうと思っていたんだ。この薬は止めておいたほうが良いかもしれない」
「何かあったのか?」
「確かに、疲労は回復するのだけど、副作用なのか集中力が落ちるし…イライラするんだよ。改良したほうが良いだろう。今だって、誰かを殴りたい衝動に駆られている。僕だから良かったものの。怒りっぽい人だったら、たちまち喧嘩になるだろうさ」
「そうか…成功だな」
「え?今何て言ったか?」
彼の最後の言葉がよく聞き取れなかった。
独り言だったのかもしれない。
「これは疲労回復薬だ。この薬を他の騎士たちに無償で配ってくれ」
「今の僕の話、聞いていたか?」
「もちろん。疲労回復効果はあるのだろう?それで、ピエールは《《オレの頼みを断らない》》だろう?」
「ああ、うん。もちろんだよ」
副作用なんて些細な事だ。
疲労回復の効果はあるのだから。
そうだ、アルテーンの言う通りなんだ。
怒りっぽくなるなんて全然大したことじゃない。
「配るだけで良いのだな」
「試供品として置いておけば良いよ」
僕は、不思議と彼の言う事に疑問を持たなくなってしまっていた。
後にして思えば、既にアルテーンの術中にはまっていた事に全く気が付いていなかったのだ。




