第34話 転機
私は、理事長室のドアを開けた。
「あれ?ベルどうしたの?」
「ラン先生に、ここで待っている様に言われたのだけど」
「そうなんだ。待ち合わせかな?」
授業終了後、私はラン先生に話があると言われて理事長室へ来ていた。
きっと、今日のテストの事よね。
アンディは机に座り、事務仕事をしている。
しばらく、学院にいなかったので仕事が溜まっているらしい。
というか、後任の理事長がまだ決まっていないのね。
私はソファに座っていると、扉が開かれた。
「失礼します」
ラン先生は、濃い青色の修道服を着たシスターマリーを連れてきたらしい。
ソファに私と、ラン先生、シスターマリーが座った。
「おい、ちょっと待て。ここは理事長室だ。客間じゃないのだが」
「良いじゃありませんか理事長。この部屋は広いしスペースも余っています。それに今、他の部屋が埋まってしまっているので使えないのですよ。今回は《《ベルさんの事》》なので、特別にお部屋使っても良いですよね?」
ラン先生が、アンディに営業スマイルで話しかけている。
「…まあ、仕方ないな」
アンディはため息をついていた。
「それで、先生?お話と言うのは?」
「実はですね…」
ラン先生は、シスターマリーに私がテストの時に、的を壊してしまった事を説明していた。
「……それは凄いですね。木が生えたのですか」
「それで元聖女様に、今後どうしたらいいか意見を伺いたくてお呼びしました」
ラン先生は先ほどとは違い、深刻な様子で語り掛ける。
え?
私何かやっちゃいました?
「ご本人はどう思っているのですか?ベルさんは、本当に聖女になりたいのですか?」
シスターマリーが静かに告げる。
「…え」
まさか、そう訊かれるとは思ってもいなかった。
私は元々聖女になる気はなかったのだから。
やる気が無いのがバレてしまっていたのか。
一応、一生懸命に練習をしていたつもりなのだけど。
「聖女になるのが、どうしても嫌ならば断わる事も出来ますよ」
え?
今まで不可能だと思っていたのに?
「今のベルさんならば、殿下の婚約者なので断ることが出来ます。どうしますか?」
「ちょ、ちょっと聖女様!それは…」
ラン先生が慌てて、口をはさむ。
でも…。
「実は最近、魔法が面白くなってきて…今日もびっくりする事があったのですが…出来ればもう少し頑張ってみたいですね」
私の中で、不思議と「やってみたい」という気持ちが湧きあがってきていた。
*
「ベル最近変わった?以前と比べて、授業を真剣に受けているような気がする」
「えっ?」
セレナが首を傾げている。
座学は苦手だったのだけど、やる気が出てきて授業の内容をしっかり聞くようになった。
そしたら勉強も少しずつ分かるようになってきた気がする。
比例して、魔法も上手く出来るようになっていた。
「意識って大事なんだな。初めて知ったよ。ベルが聖女になる日も近いのかもしれないな」
アンディはしばらくして、理事長の任を解かれていた。
ようやく代理の人が決まったらしい。
「俺も、本格的に頑張らないといけないな」
学院の理事長職は解かれたのに、授業が終わると何処かへ消えてしまう。
寮に戻っているわけではないみたいだけど。
お城でお仕事をしているのかしら。
*** アンディ・ロードス・ウッドステック 視点
「殿下、よろしくお願いします」
「俺だからと言って、手を抜かないでほしい」
手合わせの騎士が頭を下げる。
俺は王城の演習場で、若い騎士に稽古をつけてもらっていた。
長い時間は無理だが毎日少しずつ。
剣を振り続けていないと、感覚が鈍るらしく最初の頃は散々なものだった。
ほんの数カ月、剣を握っていなかっただけなのに。
カン、カン、カン。
木の剣が交差する。
剣は軽くて実践向きではないが、何もしないよりはマシだろう。
一瞬、相手の騎士の切っ先が、俺の腹をかすめた。
「はぁはぁ…」
直ぐに息が上がり、汗だくになる。
もう少し動けるようにならないと。
剣も相手に届いていない。
練習が終わり、木陰で体を休める。
辺りはすっかり暗くなっていた。
昼間は魔法学院、夕方は剣の練習。
寮に帰ると、遅い時間になっていた。
ハードだが、短期間理事長の仕事をしていた所為なのかあまり苦では無かった。
「殿下、お疲れ様です。何か転機がございましたか」
「俺も、もう少し本気になろうと思ってね」
俺は、話しかけてきた騎士に答える。
騎士の名はピエール・ブレイスフォード。
魔法学院に息子が通っているらしい。




