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第33話 アルト商会

 *** 試験を手伝っている男性教師 視点


「失礼します。アルト商会です。備品が壊れたとの事なので、代わりの的をお持ちしました」


 備品が壊れてしまったので、直ぐに事務の者に連絡したのだが、もう店の者が来たのか?

 いつもなら早くても翌日…それでもかなり早いと思うが。

 帽子を被り、青いエプロンをつけているアルト商会の女性従業員が、代わりの的を持ってきた。


 それにしても早すぎないか?

 台車に載せて、ゴトゴトと音を立てながら新しい的をおれの目の前まで持ってくる。


「もう持ってきてくれたのか。早かったね」

「納品で、ちょうど近くに居ましたので…ところで、壊れた的はどちらですか?回収致します」

「あー。えっと、それが…」


 おれは、先ほどいきなり生えた大木を指さした。

 もうすでに形が変わっていて、的が木になっているなんて未だに信じられない。

 あれが元は的だったなんて、誰が信じられるだろう。


「これ、魔法で変化したものですか?」

「きみ、解かるのかい?」

「わたくし、少し魔法をかじった事がありまして。因みにこれに魔法を掛けた方は?」

「ああ、そこでラン先生と話をしている女子生徒だよ」


 店員は、演習場の端で立っている銀髪の女子生徒をしばらく見ていた。

 彼女は、聖女のスキルがあるって聞いていたが、とんでもない能力だ。


「それは興味深いですね…では、新しい的は置いて行きますので。壊れた備品は…そちらで処分してください。流石にこちらでは持って帰れませんので。また御入用ありましたら、よろしくお願いします」


 店員がお辞儀をすると、帽子からサラリと金髪が流れる。


 ガラガラガラ・・・。

 台車を押してアルト商会の店員は帰っていった。


「ほら、お前たち引き続きテストをするぞ」


 授業中にテストを終わらせないといけない。

 思わぬトラブルがあったが、何とか時間内に終わりに出来そうだ。



 *** ヴァネッサ・ピエドラ(青い魔女)視点



「まさか、また会うなんて…」


 わたくしは、アルト商会で仕事をしている。

 まだ数週間しか経っていないが、色々と出来る仕事が増えてきた。

 今日は魔法学院に備品を納品するために、たまたま訪れていただけだったのだけど。

 学校へは注文された品物を届けるだけで、金銭の受け渡しは無い。


 事務室で的が壊れたと聞いて、荷馬車に的が置いてあった事を思い出す。

 壊れやすいから、常に数台置いてあったのだ。

 的を台車に載せて、演習場へと運んで行った。


 魔法学院は商会のお得意様らしい。

 木製の丸い的を教職員に渡すと、見知った少女を見かけた。

 王城でわたくしの魔法を唯一破った人。

 忘れられるわけもない。


 何とも言えない感情が溢れてきたが、手を握りしめて何とか抑える。

 ここで正体が知られたら、役人に掴まってしまう。


 わたしくが、黒髪だったらバレていただろう。

 金髪になると、印象がかなり変わるから気が付かれなかったようだ。


 店に戻ろう。

 一旦気持ちを静めないと。

 わたくしは深呼吸をして、荷馬車に乗り込んだ。




「おう、お疲れ様。ちゃんと仕事は出来ているみたいだな」

「面倒を見てもらっているのだもの。これくらいはしますよ」


 店に戻ると、オーナーが居た。

 彼は何日も姿を現さなかったりして、いまだに謎の人物である。

 立派なジャケットを着て、見た目は普通の商人なのだけど。


 わたくしは、住み込みで働かせてもらっていた。

 二階の個室をあてがわれている。


「アルテーン様はいつもお忙しいのですね」

 彼も目立つ黒い髪をしていた。


「今夜はお前に裏の仕事をしてほしくてな。出来るか?」


 商会は表の仕事だったのね。

 何か裏があるとは思っていたけど。


「お世話になっていますし、わたくしが断る訳ないじゃないですか」


 一体、どんな事をさせられるのだろうか。

 口元が自然と緩んでいた。

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