第30話 久しぶりの実家 2
コンコンコン。
「ベル…部屋に入って良い?」
「どうぞ」
寝巻に着替えて、もう寝ようかなと思っていた時にアンディが訪ねてきた。
彼の部屋はお客様用の寝室で、少し離れた場所にあった。
「どうしたの?」
わざわざ来るなんて、何か用があるのかしら。
ベッドに腰かける私に、アンディが隣に来て肩に寄りかかってきた。
「もう寝るところだった?ごめんね」
「うん。大丈夫だけど」
彼の顔を見ると、目がとろんとしている。
眠たそうね。
そういえば、一緒に寝たいって言ってたっけ。
てっきり冗談かと思ったのだけど。
パフン!
バランスが崩れて膝枕されちゃったわ。
「しばらくこのままでいい?動きたくない」
「もう、仕方ないわね」
私は彼の頭を撫でる。
群青色の髪はサラサラして気持ちいい。
安心したのか、しばらくすると寝息を立て始めてしまった。
長旅で疲れていたのね。
瞼を閉じると、年相応の少年の様で可愛いわ。
「ちゅっ」
私はおもわず彼の額に、キスを落とす。
突然、アンディの目が開いて目と目が合った。
「ごめん…つい寝ちゃってた。今、俺にキスしなかった?」
「寝顔が天使みたいで可愛くて…つい。ごめんね」
「えええ…まじか」
アンディの顔が、徐々に赤くなっていった。
顔を両手で隠している。
「突然なんだもん。反則だよ」
彼は顔を赤らめて、モジモジしている。
え、何この表情。
めっちゃ可愛すぎるのだけど。
「…ねえ、今日一緒に寝ない?俺、変な事しないからさ」
彼は上目遣いで、じっと私を見つめていた。
キレイな水色の瞳が、今にも吸い込まれそう。
アンディの手が私の頬に触れて。
自然とお互いの距離が近づいていた。
コンコンコン。
「夜分失礼します。殿下がお邪魔していないでしょうか?」
低い男性の声が、ドアの向こうから聞こえてきた。
アンディの護衛の者だろう。
「げっ!何で来るんだよ。良いところだったのに」
「やっぱり、一国の王子様が深夜に私の部屋にいるのは不味いわよね。お部屋に帰りなさいね?」
「…分かったよ。おやすみベル」
「おやすみなさい」
彼はベッドから立ち上がり、後ろを振り返りながら私を見つめている。
「また明日ね」
私は笑顔で、彼を部屋から送り出していた。
*
朝になり、食堂で朝食を一緒に食べていた。
家族一緒に食事をとるのは久しぶりだわ。
私と父親とアンディと数名の護衛の人たち。
護衛の人は遠慮して、少し離れて座っている。
本来、一緒に食事をするのは憚られるらしいのだけど。
広い食堂の席が、ほぼ埋まってしまうのは初めて見た気がするわ。
「ベル、そういえば魔法学院の方はちゃんとやっているのか?」
色々あって、一か月近く休むことになってしまったけど、それ以外はちゃんとやっている…わよね?
「はい。楽しく通ってます」
「ベルが居るから、毎日楽しいですよ」
「もう、アンディったら」
「仲良くやっているようでなによりだよ。気を付けて帰りなさい」
隣家にはアンディの実のお母様が住んでいる。
以前会ったお母様よね?
もう命の危険は無いから、城に戻っても大丈夫らしいのだけど。
居心地が良すぎて、王城には戻らずに暮らしているらしい。
「ちょっと、顔を出して戻ってくるよ」
「私も一緒に行くわ」
アンディのお母様だもの。
きちんと挨拶をしておかないといけないわ。
「まあまあ、お久しぶりね。ベルちゃん。ようやく婚約までこぎつけたのね」
アンディのお母様は、相変わらずお綺麗だった。
群青色の髪はお母様ゆずりだろう。
「母さん、それで俺、城に戻ることになった」
「わたしに遠慮しなくてもいいのよ?わたしだって戻って来いって言われたけど、好きでここに住んでいるだけなのだから」
紅茶を飲みながら、語りだすお母様。
「側室は窮屈なのよね。気を遣うし。その点このお家は気楽でいいわー。城が嫌になったら、ベルちゃんもこっちへいらっしゃいな」
「母さん!」
「おほほ。冗談よ。貴方はベルちゃん一筋なのでしょう?」
一人だけど、楽しそうに暮らしているみたいだわ。
自由奔放な生活で、少し羨ましく思ってしまった。




