第29話 久しぶりの実家 1
数カ月ぶりの我が家。
屋敷の前で馬車を降りると、執事やメイド達が出迎えてくれた。
深々とみな頭を下げている。
「「「アンディ殿下。ようこそお越し下さいました」」」
「「「お嬢様、おかえりなさいませ」」」
「お父様、ただいま戻りました」
「おお、ようやく到着したか。待ちくたびれたぞ」
玄関でお父様が出迎える。
私たちが到着するのを待っていたらしい。
「お久しぶりです。バードさん」
「殿下、お元気そうで何よりです。長旅でお疲れでしょう。是非リビングでお寛ぎください。護衛の方々もどうぞ」
お父様は驚くでもなく、アンディに休むように告げた。
執事やメイドが慌ただしく動き始める。
「んん?」
私が首を傾げていると。
「ベル、おかえり。お城は凄かっただろう」
「ええと?お父様。アンディの事、王子様って知っていたの?」
「ああ、お隣に越して来てから知っていたよ。殿下が毎日のように家に遊びに来てくれていただろう?」
ええ?
もしかして私だけ知らなかったの?
でも、王子様なのに普通に話をしていたわよね?
「俺が、ベルに黙っておいてほしいってお願いしていたんだ。王子って分かったら普通に接してくれないと思ってさ。お友達になりたかったからね」
私、家族ぐるみで騙されていたのね。
「アンディ様、家の娘と婚約とか本当によろしいのですか?家は爵位も低い男爵なのですが」
「爵位は関係ありませんよ。俺は、ベルだから一緒になりたいのです」
「きゃあああ!ステキ!」
「ほら、貴方たち仕事なさい」
メイド達は興奮気味に騒いで、執事に怒られてるわ。
どうやら知っていたのは一部の人だけだったみたいね。
「今日は家でお泊り下さい。準備させますので」
「やっと安心できるな。ベル一緒に寝よ?」
「ちょ、ちょっと何言ってんの??」
私の隣に座っていたアンディが、私の髪を触る。
「子供の頃は、よく一緒に寝たじゃないか。宿屋だと、別々の部屋に割り振られるから一緒に寝られなかったし」
一体、何年前の話をしているのよ?
狼狽える私を見て、アンディはクスクスと笑っている。
私、揶揄われているのかしら。
「殿下、お戯れはおやめください」
慌てて、お父様が会話に割り込んだ。
「悪かったバード。ちょっと、揶揄ってみたくなっただけだよ。だって、ベル可愛いんだもん」
「なされるのでしたら、せめて王城に戻ってからお願いします」
「…半分本気だったんだけどな」
アンディが、ぼそっと呟いていた。
*** ヴァネッサ・ピエドラ(青い魔女)視点
「ここは?」
連れられた先は小さい店の中だった。
古臭い店内には、所狭しと道具が置かれている。
「お前さんは、少し仕事を手伝ってくれればいい。ちょうど道具屋の店番を探していたところだ」
「ちょっと!わたくし、顔が知られているんですのよ?」
手配書が回っているのに、店に顔を出せるわけないわよ。
「道具屋は色々なアイテムが置いてあるんだ。髪染めなんかもな。ほら、金髪なんてどうだ?魔法で簡単に色が変えられる優れものだ」
「へええ」
便利なアイテムがあるものね。
髪を染めるなんて考えもしなかったわ。
「俺は魔法耐性があるから、アンタの魔法は効かない。下手な事は考えない事だ」
それだけ言うと、男はさっさと何処かへ消えてしまった。
どうやら、わたくしの事を知っているようなそぶりだった。
お金取って逃げるとか思わないのかしら?
商品に付いていた説明書を読む。
丸い粘土に魔力を込めると、液体状に変わり髪ににじませると全体に広がるらしい。
わたくしは、渡されたアイテムで黒髪を金髪に変えた。
「こんなアイテムがあったのね。知らなかったわ」
元々あった髪のように艶々して輝いている。
仕組みが分からないけど、凄いわね。
「これは、別人に見えるわね。いっそ眼鏡でもかけようかしら」
気分転換にもなるみたいで、気分が高揚してきた。
「ほう、似合うじゃないか。服持ってきたからこれに着替えろ。その青いローブだと目立って仕方ない」
服を取りに行っていたのね。
確かに言われた通りだわ。
わたくしは言われた通り、町娘風の地味な薄茶色のワンピースに着替えた。




