第28話 謁見 2
室内に入るとソファを勧められて座った。
部屋は落ち着いた雰囲気で、絵画などが飾られている。
「ワシはフィルナンド王ヴィック・ロードス・ウッドストックだ。話には聞いていたが、可愛いお嬢さんじゃないか。其方、名前を何と申すか」
「初めてお目にかかります。私はベル・クリスタルと申します」
落ち着いて言葉を出すことが出来たわ。
冷や汗が、額を伝っている。
「ああ、緊張しているのか。普通に話してくれて構わないのだが」
「父上、それは難しいですよ」
目の前の豪奢な服装をした王様は、私に何か言ってくれているのだけど。
私は、緊張しすぎて頭が真っ白になっていた。
「謁見の間だと、自然に話せないだろうから自室にしたのだが…仕方ないのだな」
「父上。もう何方かから聞いているかもしれませんが、俺とベルは婚約することにしました。良いですよね?」
「お前は他の令嬢には目もくれんしな。今まですべて断って来たでは無いか。ワシは特に反対する理由も無いよ」
アンディが王様に話してくれた。
私たちの婚約を、反対されることもなくあっさりと了承される。
(良かった)
私は心の中でホッとする。
「ありがとうございます」
アンディが頭を下げたので、私も慌てて下げる。
「次は、もう少し其方と話が出来ると良いな。ワシはこれから仕事だ」
どうやら、私たちに合わせて部屋で待っていたらしい。
私たちは、王様の部屋を退出する事にした。
「はあーーっ。緊張した」
部屋を退出後、廊下を歩き始めた私は大きなため息をついた。
「珍しいな。ベルがため息をつくなんて。お疲れ様だったね」
「本当よ。人生終わるかと思ったもの」
「大げさだなあ」
だって、怖かったんだもの。
王様って言えば国家権力の最高権威じゃない。
何か粗相をして、罪に問われれば死刑にだってなるかもしれないし。
まあ、極論かもしれないけどね。
「でもまあ、次はベルのお家訪問かな?」
「え?」
すっかり忘れていた。
お父様に、婚約したことを報告しなければいけなかったのね。
この事を聞いたら、お父様はきっと腰を抜かすかもしれないわ。
「そういえば、学院をしばらくお休みしているわね。これからルルムに帰るにしてもしばらく行けないわね」
「問題ないよ。学院に一か月の休学届を出しておいた」
アンディは、そういうところ抜かりがないわね。
でも、一か月もお休みしたら、授業について行けなくなるんじゃないかしら。
私が眉間にしわを寄せていると。
「大丈夫。家庭教師を雇うから。っていうか無理して学院へ通う必要ないんだけどな。王城でも勉強は出来るのだし」
心配は全く要らなかったみたい。
帰って来てから、お勉強が大変になるのが少し気になるけど。
「お陰さまで、二人っきりで旅行が出来るね♪」
「旅行って…」
アンディは凄く機嫌が良くて浮かれている。
馬車で実家に行くのに、一週間はかかってしまうから仕方のない事なのだけど。
往復で、最低二週間はかかるわ。
前世の車や電車が懐かしく思えてくる。
ガタガタガタ…。
二人っきりの移動だと思っていたけれど、そんな訳がなかった。
私とアンディの乗る高級馬車の周りには騎乗の護衛騎士がいて。
うん。
分かっていたわ。
王子様だもの。
馬車も乗り心地が良くて、振動がほとんど無い。
「何だか凄いわね…」
アンディって「王子様なんだなぁ」って改めて思う。
私は、外の護衛騎士を眺めていた。
「嫌だった?ごめんね。こればっかりはどうしようもないんだ」
何処へ行くにも、人が付いていたのね。
自由なんて全然ないんだわ。
彼は今までずっとこんな生活をしていたのだろうか。
屋敷に住んでいた時は全然知らなかった。
「でも夢みたいだよ。ベルと一緒に移動できるなんて。数カ月前までは夢にも思わなかったし」
アンディは穏やかに微笑んだ。
移動中の宿も高級な所へ泊まるのだろう。
彼は王族なのだから。
行く道中は何事も無く、私たちはルルムの街へ入った。




