第25話 魔女の魅了
パリンと何かが割れるような音がした。
透明な膜が割れて、砕け散ったようだ。
「まさか…結界を破ったというの??今まで誰にも破られたことがないのに…」
ヴァネッサは驚愕し、目を見開いている。
「ベル…良かった無事で」
アンディが私の姿を確認し、近くに駆け付ける。
どうやら結界が掛けられていて、見えなくなっていたらしい。
魔法解除が上手く効いて結界が壊れたようだ。
「はああ?何で魅了が効かないで正気なのよ?」
「前に似たような物を食べたお陰で、耐性が付いているみたいだな。お前の能力に惑わされずにすんだよ。ベル、怖かっただろう。ごめんな」
「アンディも無事で良かったわ」
「この事はもちろん王に報告する。王族に手を出したとなったらお前はどうなるだろうな」
「その前に逃げるわよ!」
『拘束魔法』
アンディが右手を掲げて呪文を唱えた。
ヴァネッサが走り出そうとした途端、彼女の腕と足に魔法の縄が絡みつく。
「逃げられるわけがないだろう?今までさんざん好き勝手していたらしいじゃないか」
「ふ、甘いわね。バインドの強度がなってないわ」
ヴァネッサが力を込めると、魔法の縄はボロボロと崩れ落ちる。
「「バン!」」
ドアを開け、ヴァネッサは直ぐさま逃走した。
「逃げられちゃったわね」
「ああ、大丈夫だ。外には、騎士たちが居るから捕まえるだろう。彼女を追い出す口実が出来て良かったよ。肝が冷えたけどな」
「アンディ?」
私は、アンディに強く抱きしめられた。
少し、体が熱っぽいわね。
「ごめん…やっぱり少し術にやられちゃったみたいだ。気持ちが抑えられない」
「え?」
「ベル、可愛い」
アンディが私の顔に手を添えて、そのまま覗き込んでくる。
「チュッ」
唇にキスをされた。
あ、あれ?
急にこんな事する人じゃないのに。
アンディの瞳は虚ろで何処かおかしい。
顔が赤くて、ぼーっとしているみたい。
「ちょ、ちょっと…?」
「大好き…何て愛おしいんだ」
唇に再びキスをされて、彼の熱いものが私の口内に入ってくる。
体中に、ピリピリと電気が走ったような感じがした。
「ベル…愛してるよ」
耳元で愛の言葉を囁かれて、胸の鼓動が高鳴る。
「アンディ…一体どうし…んんっ」
キスで再び口を塞がれて、言葉が出せなくなる。
ふわふわとした感じで変な感じだわ。
体が熱くなり、意識がぼーっとしてきた。
何これ…気持ちが良い…。
バタン!
「殿下、大丈夫ですか!今、青の魔女が…」
ドアを開けて、慌てた男性の声が聞こえた。
ぼーっとした意識で思う。
「「で、殿下!何をやっているんですか!!」」
アンディの様子がおかしいと気が付いたようで、私は彼と直ぐに引き剥がされた。
「これは…魅了ですね『魔法解呪』」
アンディは解呪の魔法を掛けられたみたい。
神官が助けてくれたようね。
*** アンディ・ロードス・ウッドストック 視点
ベルは気を失ってしまったようだ。
「殿下、やりすぎですよ…いくら術にかかったとはいえ」
「すまない」
「わたくしじゃなくて、本人に言ってくださいよ」
魅了にかかってしまって、大好きな人を目の前に暴走してしまった。
以前も同じような事があって反省したばかりだというのに。
オルデガに止めて貰わなければ、キス以上の事をしてしまっていたかもしれない。
「相手がベルで良かったと思うよ…ヴァネッサ相手だったら立ち直れない」
ヴァネッサにキスをしてしまったら、ベルを傷つけて嫌われてしまったと思う。
二度と、口を利いてもらえなくなるだろう。
「そういえば、ヴァネッサはどうした?捕まえたのか?」
神官オルデガに訊ねる。
「数人の騎士が捕らえようとしましたが、失敗しました。城を逃げ出したようです」
さて、どうしたものか。
俺はベルをベッドの上に運びそっと寝かせる。
「心の中の気持ちが暴走したのか…」
本来ヴァネッサに向くべき好意が、ベルに向かったのも不思議だった。
俺は、銀色の美しい髪を優しく撫でる。
「ベル、ごめんなさい」
意識のない彼女に向かって呟く。
今更、謝っても遅いかもしれない。
「わたくしが言うのもおこがましい事ですが、もういっそ婚約されてはどうですか?」
「え?」
俺は、オルデガの言葉に呆気に取られていた。




