第24話 青い魔女とベル
「ただいま」
「おかえりなさい」
アンディはやけに疲れた顔をして戻ってきた。
どうしたのかしら?
私は、ベッドに腰かけて訊ねる。
「何かあったの?」
「いや…たいしたことじゃないんだ。多分ベルには関係ない事だろうし、心配しないで…城よりも寮に戻った方が安全なのか…」
ブツブツと腕を組んで呟いているアンディ。
一体何があったのかしら。
「ところで王様のところには行ってきたの?帰って来るのが早かったけど…」
「あー忘れてた!今から行ってくるよ」
変ねえ。
その用事を済ませるために行ったんじゃなかったの?
アンディが部屋を出てしばらくすると。
コンコンコン。
ドアがノックされた。
「失礼します」
入ってきたのは青いローブを羽織った黒髪の女性。
真っ赤な唇が妙に色っぽい。
男性が好みそうな大人の女性だわ。
「初めまして、わたくし魔道士のヴァネッサ・ピエドラですわ。随分かわいいお客様だこと。アンディ殿下を追いかけていたらこの部屋に来たのだけど…」
「初めまして。私、ベル・クリスタルです」
ヴァネッサに全身を舐めまわすように見られる。
あまり気持ちの良いものではないわね。
「殿下と、少しお話がしたかったのだけどタイミングが合わなかったみたいね」
「そうですか」
しばらくすれば戻ってくるとは思うけど。
その言葉もあえて言いたくなかった。
この人はアンディとどんな関係なのだろう?
「ここで、待たせて貰ってもいいかしら?」
「…どうぞ」
断る理由も無くて、仕方なく了承する。
嫌な予感がするわ。
私のこういう時のカンって当たるのよね。
*** アンディ・ロードス・ウッドストック 視点
「おかえりなさい。殿下」
「ここにいた銀髪の女の子はどうした?」
「家に帰るって言って出て行きましたわよ?」
「……」
そんなはずはない。
ベルは大人しく待っているはずだ。
俺はヴァネッサをじろりと見た。
「なあんだ。もうバレちゃったのね。どうしてかしら」
「ベルをどこに隠した」
「この部屋にいるわよ。ただ認識できなくなっているだけだけど。貴方が言う事を聞いたら解放してあげるわ。その腕輪を今、外してちょうだい」
この腕輪を外すとヴァネッサの魅了にかかってしまう。
自分でもどうなるかわからない。
だが、ベルの身が心配でならない。
俺がベルを裏切ったりしないだろうか。
俺は唇をかんだ。
「分かった。必ず彼女を開放すると約束してくれ」
「分かりました。必ず約束いたしますわ」
俺は腕輪を自分から外した。
ああ、頭がぼーっとしてきた。
以前、媚薬入りのお菓子を食べた時の感覚に似ているな。
「さあ、アンディ殿下。跪きわたくしの手に口づけなさい」
強制的な声が彼女から発せられる。
思いとは裏腹に体が言う事を聞かない。
足が、ヴァネッサの元へ近づいて行った。
*** ベル・クリスタル 視点
私はヴァネッサさんから魔法をかけられてしまったようだ。
同じ部屋にいるのに、アンディに気が付いてもらえない。
まるで透明人間にでもなったかのようだわ。
ヴァネッサがアンディに腕輪を外せと言っている。
アンディは顔をしかめて迷っていたけど、私を開放する約束で腕輪を外した。
腕輪を外すことで、何かあるのかしら?
アンディが言ったにもかかわらず、私は解放されない。
何とかこの見えなくなる魔法を解けないものかしら。
「さあ、アンディ殿下。跪きわたくしの手に口づけなさい」
ヴァネッサがとんでもない事を言っているわ。
彼は仮にも王子様なのよ?
アンディはゆっくりとヴァネッサに近づいている。
『魔法解除』
私が両手を上げて、解呪の魔法を唱えるとパリンと何かが割れる音がした。




