第21話 元聖女
*** アンディ・ロードス・ウッドストック 視点
ベルはベッドで安らかに眠っている。
精神的ショックが大きかったのだろう。
攫われて、殺されかけたのだから。
「俺が強ければ、直ぐに助けられたのに」
唇をかみしめた。
もう終わってしまった事だが、後悔が残る。
このまま、城で一緒に暮らせれば危険な目にも遭わないのではないか。
元凶を取り除いたから、頭では大丈夫だとは分かってはいるのだけど。
「道也…」
彼女は、怖い夢を見ているのだろうか。
頬に雫が零れ落ちている。
ベルの手を握りしめて俺は呟く。
「俺はここに居るよ。もう離れる事はない。ずっと一緒だ」
思い出していた。
俺は安西 道也という日本人の記憶がある。
夢で見ていたのが、どうやら本当の事だったらしいと。
最近になりようやく分かった。
以前、ベルが言っていたことを思い出したのだ。
俺は恐らくベルに…昔会っていたことがある。
信じられないが、別の世界での事だ。
俺は、ベル…小鳥遊 美鈴とデートをする約束をしていた。
ところが当日、俺は事故に遭って死んでしまったようだ。
その頃の事を思い出して、ベルは泣いているのだろう。
もう随分、昔の事だというのに。
「俺はここに居るよ」
繰り返し呟く。
だからもう泣かないでほしい。
今更、前世がどうとか言うつもりは無かった。
だけど、泣いている君を見たら、居てもたってもいられなくなったのだ。
目元の涙を指でそっと拭く。
「道也?」
「ああ、起こしてしまったんだね」
ベルは目を開けて不思議そうに俺を見ていた。
「うん。どうやら俺は、君の知り合いの道也だったらしい。最近思い出したんだ」
*** ベル・クリスタル 視点
「アンディが道也?」
「うん。ほら前に話してくれただろう。日本の事とか色々、最近になって思い出したんだ」
水色の瞳は真剣で、嘘を言っているようには見えなかった。
「そう…だったのね」
「俺は…言い方は悪いけど、道也でもアンディでも正直どっちでも良いんだ。ベルの事が大好きだから」
頬を手で優しく触られる。
「夢で久しぶりに道也が出てきて…でも笑ってたの。幸せそうで良かったって」
「そうか…」
彼は優しく微笑んでいる。
道也はずっと私の近くに居たのね。
バタン!
ドアが突然開かれた。
「ベルさん?お怪我は大丈夫なのですか?」
「シスター?」
青い修道服を着たシスターが血相を変えて、部屋に飛び込んできた。
彼女は光魔法の先生だ。
「あ、あらごめんなさい。怪我をしたって聞いたものだから。お二人の邪魔をする気は全く無くて…」
「聖女マリー。彼女は大丈夫ですよ。でも入る時はノックをお願いしますね」
「あら、私としたことがごめんなさい。気が動転して慌てていましたので。それと、わたしは《《元聖女》》なので、今はただのシスターマリーです。ベルさんが、治療の為に教会ではなくて王城に運ばれたと聞いて驚きました」
「こちらの方が近かったですからね。それに、ここにも優秀な神官がいますから」
「まあ、オルデガに任せておけば心配ないでしょうが…」
シスターは神官とも知り合いみたいね。
色々と訊きたいことがあったけれど、また強い眠気が襲ってきた。
「アンディ、ごめん。また眠るね」
「おやすみベル」
彼の手が頭に触れて、優しく撫でられているのが分かった。
私は、また眠りに落ちていった。




