第14話 元婚約者の執念
「ベルさんー」
教室前の廊下で、私は呼び止められた。
昨日の金髪の女子生徒、イザベラさんが笑顔で私に手を振っていた。
「昨日は、ひどいことを言って申し訳なかったですわ」
「えっ?」
一昨日、退学させると息巻いていたイザベラさんから頭を下げられた。
昨日の今日だし、何か魂胆がありそうで少し怖い。
「お詫びとして、お菓子を持ってきましたのよ?是非食べて頂きたいと思いまして」
可愛くラッピングされた小さな巾着袋を渡される。
赤いリボンで結ばれており、見た目は悪くないのだけど問題は中身よね。
「はぁ、ありがとうございます」
とりあえず受け取ったけど、どうしようかしら。
私はそれを教室に持ち帰った。
直ぐに、ゴミ箱へ捨ててしまおうかと思っていたのだけど。
そのまま捨てたら、誰かが拾って食べちゃうかもしれないわね。
「うーん」
どうしようかーと悩んでいると。
「良い匂いがするー。それってお菓子?ちょうどお腹空いていたんだよね」
机の上に置いてあった、巾着にアンディが手を伸ばしていた。
そういえば、こういう奴だったわ。
「食べないほうが良いと思う…って吐き出しなさいよ」
私が言い終わる前に、アンディは既に口の中に放り込んでいた。
昔から食い意地は変わらないわね。
「もぐもぐ…ん?別に甘くて美味しいけど?」
アンディは首を傾げている。
あれ?彼女に他意はなかったのかしら。
実は本当に反省していて、変に誤解していただけなのだろうか。
「……」
彼の手から、クッキーがぽろりと床に落ちる。
急に、アンディの顔が近づいてきて頬にキスをされた。
えっ?
「好きー大好きー」
「な、何をいきなり…」
アンディに絡みつかれて、あちこちにキスをされる。
「愛してるよ…」
「ちょ…アンディ…ど、どうしたの…」
「ええ?アンディくん、どうしたんだ?」
突然、こんな事をする人じゃない。
彼の目はどこかうつろで、どうも様子が変だ。
お酒を飲んだように、顔が真っ赤になっている。
『催眠魔法』
私はとっさに魔法をかけた。
防犯対策にと、ラン先生から教わっていた魔法がこんな時に役に立つなんて。
アンディはコテッと眠り、倒れる。
どうやらクッキーには毒が入っていたらしい。
媚薬なのかしら。
私が食べたらと思うと背筋が寒くなった。
彼を何とかしないと。
「セレナ、アンディを医務室へ運ぶから手を貸してくれる?」
「うん、わかった」
騒然とする教室の中、私とセレナはアンディを抱えて、医務室へ向かった。
*
「早く医務室に連れてきてもらって良かったわ。…厄介な毒を盛られていたみたいね」
医務室に行くと、ラン先生が来て直ぐに処置をしてくれた。
空の薬瓶をテーブルに置く。
「丁度、解毒薬が置いてあって助かったわ。ベルさん、ところでこれは一体どういう事なのかしら?」
私はラン先生に訊ねられた。
カーテン越しのベッドにはアンディが静かに眠っている。
「実は…」
私はアンディの元婚約者が、私にお菓子を渡してきたことを伝えた。
彼女にはよく思われていない為、何か入っていると思っていたことも
「…今回の事はかなり悪質ね。イザベラさんは何らかの処分を受けると思います。アンディくんはわたしが見ているから、ベルさんは教室に戻りなさい。心配いらないから」
*** ラン・フォーリーウッド(担任教師) 視点
パタン。
医務室のドアが閉められた。
「アンディ様、起きているのでしょう?大丈夫ですか。お体の方は」
「まだ、ぼーっとするが大丈夫だ。すまなかったな。心配をかけた」
わたしは、カーテンを開けて椅子に座る。
「ところで、いつまで隠しておくつもりですか?そのうちに彼女にバレますよ?」
「俺が父上に頼み込んだことだからな。自由がきくうちは彼女の近くに居るつもりだ」
「もっと気を付けて行動してください。彼女の前で、気が緩むのは仕方がないとは思いますが」
「分かっている」
高貴なお方が、身分を偽って彼女の近くに居るのが、わたしには理解が出来なかった。
実家に帰れば、何不自由なく暮らせるというのに。
「イザベラ・ゴルド・ベンウェルの処分ですが、どう致しますか?」
「そうだな退学でいいだろう。理事長は退職処分にする」
アンディ様は処分が甘い様な気がしたが、わたしが口をはさむべきことではないわね。
「では、その様に報告いたしますね」




