第11話 アンディの婚約者
「ベルというのは貴方ですわね。ちょっとよろしいかしら」
昼休み。
学院の食堂で食事をしていると、金髪でロングヘアーの見慣れない女子に声をかけられた。
質の良さそうなドレスを着て、片手に扇子を持っている。
高位貴族の令嬢だろうか。
学院の裏庭に連れて行かれた。
複数の知らない女子が私を取り囲む。
「わたくしは、イザベラ・ゴルド・ベンウェル、子爵の娘よ。アンディ様の婚約者なの。彼に近づかないでくださる?」
氷のような、青い冷たい瞳で言い渡される。
「婚約者…」
今まで、アンディに婚約者がいたなんて聞いたことが無かった。
貴族なのだし、親同士で決めた人がいるのかもしれない。
私は…何故かショックを受けていた。
「そ、そうなのですね。知りませんでした。不快な思いをさせて申し訳ありません」
私は頭を下げる。
知らなかったとはいえ、少し彼との距離が近かったのかもしれない。
しかし…子爵ね。
貴族の位もよく分かっていないのだけど、私の家は男爵だから上という事は分かる。
「解ったのならいいわ。伝えたいことはそれだけですの」
わざわざ嘘をつく人はいないだろう。
確認しようにも、彼は今日学院を休んでいる。
*
三日ほどして、アンディが登校してきた。
少し元気がないように見える。
「もう体調は大丈夫なの?」
「うん…」
彼は、私の方を見ず返事だけかえした。
「アンディって…婚約者がいたのね。そういう事は前もって言って欲しかったわ…言っていれば、もう少し気を遣うのに」
何だろう…言葉を出すのが辛い。
無理に笑顔を作り、やっと吐き出した。
何でこんなに胸が苦しいのだろう。
「え?」
アンディが初めて私の顔を見た。
「イザベラか…そういえばこの学院の三年だったっけ。お前に会ったのか?」
「…昨日、「近づかないで」って忠告しに来たわ。貴方にあまり親し気に話をしないほうが良いかもね。貴族って大変よね」
上下関係が厳しいのは分かっているのだけど。
前世の日本人の意識が強くて、どうしても他人ごとに思えてしまう。
「ええっ?アンディくんは婚約者がいたのか?」
隣で私たちの会話を聞いていた、セレナが目を丸くする。
あら肩を落としているわ。
そりゃ、好きな人にすでに婚約者がいるって訊いたらショックよね。
「彼女は、親同士が決めた婚約者だ。俺は、ずいぶん前に断ったのだがな」
*
学院が終わり一人、寮の部屋のベッドの上にいた。
ぼーっと天井を見つめる。
アンディに婚約者がいた。
彼は領主の息子なのだから、不思議な事ではないのだけど。
「婚約者…」
断ったって言ってたけど、彼女は本気で彼と付き合いたいのだろう。
わざわざ私に言ってくるくらいだもの。
「私には関係ないわ。私には…道也がいるもん」
でも、何でこんなにショックなのだろう。
私は、ベッドに体をあずけた。
***
「美鈴。俺はいつでも近くにいるよ」
私は、彼と駅前で待ち合わせをしていた。
嫌な胸騒ぎがして、走って駅前に行くと。
「「ピーポーピーポー」」
救急車の音が、けたたましく鳴っている。
急いで駆け付けると、大量の血を流して倒れた彼の姿があった。
「美鈴」
一言だけ、彼が私の名前を呼ぶ。
彼は担架に乗せられ病院に運ばれていく。
私は、目の前の光景が信じられなくて、血の気が一気に引いて意識を失った。
気が付いた時は、私は病院のベッドの上にいて。
彼が亡くなったと両親に聞かされて泣いていた。
***
「夢…?」
服のまま寝てしまっていたらしい。
目が覚めると、真っ暗な部屋にいて心臓がドキドキして息苦しい。
これは夢じゃない。
現実だ。
その後、彼は帰らぬ人となってしまったのだから。
道也の事を考えていたから、夢に見てしまったのだろうか。
窓の外を見ると、遠くに明かりがついている所がある。
酒場とかだろうか。
夜遅くでもやっている店があるのだろう。
ぼんやりと外を眺めていると声をかけられた。
「ベル、どうした眠れないのか」
寮の外から声が聞こえた。
暗闇の中、アンディが何もない空中にふわふわと浮かんでいた。
「魔法使えたんだ。空を飛ぶなんて危なくない?ここ三階よ?」
「練習してたんだ。俺、魔法苦手だから」
「なにも、こんな夜中にしなくてもいいじゃない」
「実は…俺も眠れなくてさ」
私は、思わず窓に足をかけて身を乗り出し…彼の腕を掴んでいた。




