表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
78/83

第二十六話 「戦端の轟き」

夜が明ける。

 ルナリアの白亜の城壁に朝陽が差し込み、兵たちの甲冑を黄金に染め上げた。

 その光は、まるで戦神が剣を掲げたかのように鋭く、冷たく、そして勇壮であった。


 号令の角笛が鳴り響くと同時に、各部隊が城門から流れ出ていく。

 陣立てはすでに定められていた。銀牙シンと星羅が率いる先陣、雷槌ザラッドと炎剣フェルノートの中軍、シュイエンとシアが右翼遊撃、ユナとセリスの後方支援。

 本陣にはジンとイレーネを中心とする指揮部が控える。


 峡谷を抜けた平原に足を踏み入れた瞬間、地を揺るがす咆哮が大気を震わせた。

 黒煙を撒き散らしながら迫るのは、魔獣と魔族の群れ。

 獰猛な魔狼、棍棒を振るうオークとゴブリンの軍団、力任せのジャイアント、翼を広げるワイバーン、そして不気味な合成獣キメラまでもが混じる。

 大地は爪と蹄に抉られ、空は翼に覆われ、戦場の景色は瞬く間に地獄へと変わった。


銀牙シンと星羅


「来やがったなぁ! 獣の群れか! 俺の獣牙で噛み砕いてやる!」

 銀牙シンが雄叫びを上げ、鋼鉄の篭手を抜き放った。その刹那、彼の全身から獣じみた闘気が迸る。


 続く星羅は紅の長弓を引き絞り、静かに呟いた。

「シン様……どうか無茶をなさらないで」

「無茶じゃねぇ! 突撃だ!」

 返答と同時にシンは巨狼の牙を受け止め、逆に首を叩き斬った。鮮血が噴き上がり、戦場の前面が真紅に染まる。


 直後、雷牛が角を光らせて突進してくる。だがシンは地を蹴り、身を沈めてかわすと、鋼鉄の篭手をひと薙ぎに振り抜いた。雷牛の腹が裂け、断末魔の絶叫を上げて倒れる。


 その背を支えるように星羅が矢を放つ。一矢ごとに聖光が迸り、オークやゴブリンを穿ち抜いた。

「――陣形、楔の陣! 展開!」

 星羅の声で、獣人兵と弓兵たちが一瞬にして布陣を変える。三角の尖端にシンが突き立ち、その両翼を弓兵が支える。


 さらに星羅は地に魔法陣を描き込み、詠唱を重ねる。

「ユナ様から賜った術よ……《聖弓陣・星雨》!」

 光の弓陣が浮かび、兵たちの矢を束ねるように共鳴させる。放たれた矢は流星のごとく降り注ぎ、ワイバーンの翼を焼き裂き、キメラの鱗を穿って爆ぜさせた。


「いい矢だぜ、星羅! 俺の篭手と並べりゃ最強だ!」

「ええ……必ず、押し通してみせます!」

 二人は笑みを交わし、前へ進む。

 シンの篭手が突破口を切り裂き、星羅の陣術と矢がそれを拡張する。先陣の勢いは留まることを知らず、敵陣を槍の穂先のように突き破っていった。


一方ザラッド達は

「おらぁ! 吹き飛べ、雑魚どもぉ!」

 雷槌ザラッドが巨槌を振り下ろすたび、地が揺れ、ゴブリンやオークの群れが粉砕された。雷鳴を伴う衝撃波が走り、十を超える魔物が一度に黒焦げとなる。


 隣を進むフェルノートは冷静そのものだった。炎剣を振り抜くと、火焔の弧が幾筋も走り、前方の魔狼やキメラをまとめて焼き尽くす。

「燃え尽きろ――《紅蓮断滅刃》!」

 その一撃は前線をまるごと火の海へと変え、敵軍の隊列を崩壊させた。


「雷と炎! こりゃ地獄絵図だな!」

「口を閉じろ、ザラッド。集中を欠くな」

「ははっ! お堅ぇこと言うなって!」


 軽口を叩きながらも、二人の連携は寸分の狂いもない。ザラッドが豪腕で道を切り開き、フェルノートが炎で空白を埋める。力と力で敵を圧倒し、じわじわと前線を押し上げていった。


 右翼では、静かなる幻と氷の舞踏が繰り広げられていた。


 白布を翻し、シュイエンが指を鳴らす。

「……幻影陣」

 たちまち戦場に靄が立ちこめ、オークやゴブリンの視界が歪む。十人のシュイエンが現れ、敵を惑わす。真を見極められぬまま、背後から鋭いレイピアが突き抜けた。


 その突きには紫の霧が纏わりついている。毒霧の刃に貫かれた魔物は痙攣し、呻き声を上げて崩れ落ちた。

「シア、今だ」

「了解――《氷牙乱槍》!」

 氷の槍を手にしたシアが舞う。突きの連打は流星のように鋭く、凍気が敵の四肢を瞬く間に凍りつかせる。


 毒と幻影に惑わされた敵は足を止め、そこに氷槍が突き刺さる。足を凍らされ、首を断たれ、魔獣たちは次々に倒れた。

 二人の連携は言葉を要さない。幻で惑わせ、毒で削り、氷槍で仕留める。まるで死神が舞うように、右翼の戦場は制圧されていった。


 後方では、輝く魔法陣が咲き乱れていた。

「結界展開――《聖域結界》!」

 セリスの光の剣から光が広がり、兵たちを守る。瘴気も矢も炎も、結界に触れた瞬間に霧散した。


「ユナ、次は連携だ。《氷華連弾》を重ねる!」

「はい、セリス様!」

 二人は詠唱を合わせ、陣を組み替える。光の剣と氷槍が無数に顕現し、飛翔するワイバーンやキメラを次々と貫いた。


 ユナは唇を噛みながらも前を見据えた。

(私が護らなければ……皆が傷つく。ここで倒れるわけにはいかない!)


 セリスはそんな彼女を一瞥し、内心で感嘆する。


 二人の支援はもはや後方に留まらなかった。結界と陣術で味方を守りながら、光の剣と氷槍を雨のように敵へ降らせる。その突破力は一軍を支えるほどであり、戦場の流れを確実に味方へ傾けていった。



丘の上、本陣からジンは戦況を見据えていた。

 蒼月刀《真顕》を膝に立て、戦場を凝視する瞳は揺るがぬ炎を宿している。


 隣でイレーネが魔法投影の地図に手をかざした。

「各部隊、よく持ちこたえています。しかし……」

「……まだ出てこないな」

 ジンの低い声に、イレーネは黙って頷いた。


 真に警戒すべきは魔将デュラン。

 今の戦いはあくまで序章に過ぎないのだ。


 戦況は蒼月軍に傾きつつあった。星羅とシンの先陣は突破を続け、ザラッドとフェルノートは敵を粉砕し、シュイエンとシアは右翼を削り、ユナとセリスは全軍の支柱となった。魔獣と魔族の数は確実に減り、平原は屍の山と化す。兵たちの士気は最高潮に達していた。


 だが――。


 その時だった。

 空が突如、黒く翳った。雲が渦を巻き、光を覆い隠す。

 風が止み、大地が凍りつくような圧が戦場を包み込む。


 兵も将も、誰もが本能で察した。

 ――来る。


 闇の奥から、一つの影が歩み出る。

 漆黒の甲冑に身を包み、背に蒼穹剣ラグナロク・ゼロを負った男。

 その存在だけで、千軍万馬を圧する威圧感。


 魔将――デュラン。


 その姿を前に、歓声は掻き消えた。戦場は再び静まり返り、空気が張り詰める。

 次の瞬間、さらなる地獄が幕を開けようとしていた――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ