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第七話:月影、白刃を揮う時

夜が落ちた。

戦場は一時の静寂に包まれていた。


燃え残る陣営の炎が、赤く揺らぐ。

その中を、一人の影が音もなく滑るように歩いていた。


「……今宵、月は綺麗ね。血の色に染まるには、丁度いいわ」


静かに呟いた声は、どこか妖艶で、そして冷たい。

その者の名は——ミナギ。

蒼月組の隠密、そして暗殺の専門家。

ダークエルフの末裔であり、《月影の刃》と称される女だ。


「標的は、帝国軍副将——ダリオ・クライン。

この戦線の後方支援と連絡を担う指揮官ね」


ジンの命を受け、彼女は既に敵陣深くまで潜入していた。


月明かりを浴び、ミナギの装束がわずかに煌めく。

その身に纏うのは、魔紋を織り込んだ“影衣”と呼ばれる装備。

闇に溶け、気配を絶つためだけに作られた服。


「……いたわね」


前線から距離を取ったテント。

そこに、数人の護衛と共に立つ、一人の壮年の将——ダリオ。


「この戦況……妙だな。前衛は押していたはずだが、裏手が崩れるとは……」

「副将、増援の要請を!」

「焦るな。こういう時こそ冷静にだ……」


その言葉の途中。

影が風のように走る。


「——ッ!?」


「っ、敵襲——!」


護衛兵が反応した瞬間には、既に首筋を裂かれていた。

その刹那の動きはまさに"死"の舞。


「《月影・朧走》」


ミナギの足取りは軽やかで、しかも音を立てない。

次いで影が跳躍し、ひと振りの細身の暗器が光を描く。


「やめろ……私を討っても、流れは——」


「その“流れ”を変えるために、私はいるのよ」


ミナギの声が耳元で囁かれた瞬間、

白刃が副将の喉元を貫いた。


一切の無駄のない動き。

戦場の“秩序”すら欺く、影の仕事人。


「任務、完了」


ミナギは素早くその場から姿を消し、炎の陰に紛れた。

その行動は、帝国陣営に一気に混乱をもたらした。


——副将の死。

それは帝国前線における“盾”の崩壊を意味する。


後方支援が機能しなくなった敵軍は、次第に統率を失っていく。

ジンたちの反撃が、ようやく現実味を帯びてきたのだった。


夜が明ける頃、ローク谷は静寂を取り戻していた。

燃え残る陣と、無数の兵の亡骸を残して。


そして、彼らの勝利は、ただ一つの“兆し”だった。


——この世界に、“蒼き月”の名が刻まれ始めた最初の瞬間。

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