表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
69/83

第十七話 「戦雲、北より迫る」

北部の風は、帝都アイン・ヴァルトよりも冷たく、重かった。

その冷たさは季節のせいだけではない。

グランディア帝国北部に、反乱の火が上がったのだ。


地方領主や軍閥の不満は、長きにわたる外征と重税によって鬱積していた。

帝国西方辺境の総督――ヴィクトル・カーン。双手剣を振るう豪傑として知られる男が、その渦の中心にいた。


帝都の大広間。

皇帝アウルスの前で、重臣たちと五剣将が向かい合う。


「最高司令にはグレン・リヒトを任ずる」

皇帝の言葉が、張り詰めた空気を切り裂いた。


「陛下、それはなりませぬ!」

老臣マルキスが即座に立ち上がる。

「先の敗戦で国を危うくした人物ですぞ! この大事に再び任せるなど――」


「うるせぇな」

ギルベルトが椅子を軋ませ、立ち上がった。

熊のような巨体から放たれる圧が、広間全体を覆う。

「グレンに文句があるなら、俺たち五剣将全員を敵に回す覚悟で言え」


レオナードも冷ややかな眼差しをマルキスに向ける。

「戦場を知らぬ舌だけの者が、口出しする時ではない」

刃物のような声だった。


一触即発。

だが、アウルスの低く鋭い声が場を収めた。

「私が決めたことだ。異論は許さぬ」


こうして、グレンを最高司令とし、焔月、ギル、レオらを伴った遠征軍が編成された。


進軍は迅速かつ的確だった。

グレンは反乱軍の補給線を断ち、各地の砦を孤立させて包囲殲滅。

一方で、前線の衝突ではギルとレオが猛獣のように暴れ、敵の士気を打ち砕いた。


「ギル、右から回り込め!」

「おう、わかった! ……そっちは任せたぞ、レオ!」

「遅れたら置いていく」

そんなやり取りをしながら、二人はまるで競うように戦果を積み上げた。


兵たちはすぐに理解した――この戦いにおける三本柱は、グレンの冷徹な戦略、ギルの圧倒的な力、レオの鋭い剣だった。


そして、ついに反乱軍の本拠地、カーン砦へ。

そこに立つのは、身の丈二メートルを超える巨躯の男――ヴィクトル・カーン。

両手に握る大剣は、常人なら持ち上げるだけで精一杯の代物だ。


「帝国の犬どもが、よくぞ来た」

ヴィクトルの声は雷鳴のように響く。


「降伏しろ。命までは取らん」

グレンが静かに告げる。


 巨剣が、炎を纏うギルに振り下ろされる。


「面白ぇ!」

 ギルが大斧を逆手に構え、受け止めた瞬間、衝撃波が地面を割った。火花と炎が舞い、二人の巨体が押し合う。


 レオがその隙を突き、右脇へ踏み込む。

「獅王爆――」

 しかし巨剣の返しは想像以上に速く、レオの斬撃を弾き返す。


「こいつ……ただの力自慢じゃねぇな!」

 ギルの額から汗が流れる。ヴィクトルの剣筋には、膨大な戦場経験と練り上げられた技術が宿っていた。


砦の中庭は、まるで地震のように揺れていた。

グレンは冷静に戦況を見つめ、合図を送る。

「ギル、押し込め! レオ、左から攻撃を!」


二人は頷き、同時に動く。

 ギルの焔豪刃が真紅の軌跡を描き、ヴィクトルの大剣を押し上げる。その瞬間、レオが獅子の如く跳び込み、獅王爆斬陣を解き放った。爆裂の斬撃が鎧を裂き、衝撃で砦の壁石が崩れる。


「まだだ!」

ヴィクトルが雄叫びを上げ、最後の力で剣を振るう。

だが、その刃が届くより早く、ギルの斧が顎を打ち抜き、巨体が地面に崩れ落ちた。


戦場に静寂が戻る。

残存兵は次々と武器を捨て、降伏した。


戦いは、わずか二か月で終結した。

異例の速さだった。


帝都に凱旋したグレンたちを、皇帝アウルスは玉座から迎えた。

「見事だ。これをもって、先の敗戦の責を返上せよ」

その言葉に、ギルは満面の笑みで胸を叩き、レオは静かに口角を上げた。


しかし、グレンの瞳は静かに揺れていた。

名誉は回復した。だが、それは新たな戦いの始まりでもある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ