第六話:迅雷翔舞・リョウカ見参
ローク谷・北側。
霧と木々が密集する裏道に、ひときわ鋭い殺気が漂っていた。
「隠密部隊、接近中。数はおよそ三十……いや、四十。指揮官格がひとり……」
木陰に身を潜めながら、蒼月組の斥候が報告する。
「裏手から回り込むとは、なかなかの用意周到ぶりだな」
ジンは苦笑したが、目は冷静に戦況を見据えていた。
「迎撃部隊は最小でいい。——リョウカ、頼めるか?」
その声に応じるように、静かに歩み出る影があった。
「……やっと出番か。待ちくたびれたよ」
銀白の髪を風に揺らし、雷の紋章を刻んだ装具を纏う少女。
蒼月組副総長、リョウカ。
雷鳳族の末裔にして、ジンに忠誠を誓う最速の剣士。
「三十? 四十? ……多いようで、足りないくらいだね」
その言葉と共に、リョウカの身体がふわりと宙を跳ねた。
「雷刃展開——《迅雷翔舞》!」
雷撃と共に疾駆する影。
剣と体術が融合した彼女の動きは、まさに“舞”そのもの。
一撃。
二撃。
三撃——
数秒のうちに敵の先鋒が次々と地に伏していく。
「なっ……!? 何だ、あの動きは!」
「雷だ! 雷鳳族か……くそっ、距離をとれ!」
帝国兵たちが慌てて距離を取ろうとするも、その間にすでに後方へと回り込まれていた。
「——《迅雷翔舞・・空雷裂破》!!」
高く跳躍したリョウカが、空中で雷撃を纏い、垂直に剣を振り下ろす。
その衝撃が地を揺らし、敵陣を真っ二つに断ち割った。
「馬鹿な……副将クラスの力だと……!」
「違うな」
背後から声が飛んだ。
ジンがゆっくりと森から姿を現す。
「彼女は副将などではない。“雷刃の舞姫”。蒼月組の副総長——リョウカ・ラズハートだ」
剣を収め、ふっと肩をすくめるリョウカ。
「ったく。もうちょっと歯ごたえある相手がよかったんだけど」
そこにユナが現れ、リョウカに目線だけで労いを送る。
「リョウカ、お疲れさま。さすがね」
「ん、当然」
——裏手の敵勢は、わずか数分で殲滅された。
これにより、ガロウが抑える正面戦線は安定し、ジンたちは反撃の機を得る。
「さて……こっちの切り札も出した。次は——帝国の“将”との勝負だな」
ジンが静かに呟いた時、空に高く、紅の狼煙があがる。
敵将の登場を知らせる合図。
戦場に新たな波が生まれようとしていた。




