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第六話 「紅蓮の刃、雷を断つ」

王都ラグナリアの夜は、深く静かだった。

石畳の路地を、二つの影が音もなく滑るように進む。


リョウカとレンゲ――帝国の若き将。

鎧を脱ぎ、粗末な外套に身を包み、ただの旅人を装って王都に潜入していた。


「……情報は確かか?」

レンゲが低く問いかける。

「間違いない。奴らはこの王都にいる」

リョウカの声は落ち着いていたが、その奥に潜む緊張は、雷雲の奥に眠る稲妻のように鋭かった。


二人が追っているのは、かつて刃を交えた宿敵――ギルベルトとレオナール。

聞き込みを重ねても、その居所は霧のように掴めず、手応えはなかった。

だが今夜、ようやく糸口を掴んだ……はずだった。


不意に、背後から冷たい声が降ってきた。

「……お前たちか。レオとギルの居場所を、コソコソ嗅ぎ回っているのは」


振り返った瞬間、空気が張り詰める。

そこに立っていたのは、一人の黒髪の女。

漆黒の軍服に真紅の帯、腰には炎のように赤く輝く日本刀。

その瞳は、氷のように冷たく、同時に見る者の心を焼く殺気を宿していた。


「……焔月、か」

リョウカが低くつぶやく。

新たに五剣将に任命された剣士――いや、鬼神に近い女。


焔月は淡く笑った。

「“様”はいらない。すぐに死ぬ者に礼は不要だ」


レンゲが一歩踏み出し、腰の剣に手をかける。

「なら――遠慮はしない!」

リョウカも双剣を抜き、雷を纏わせた。空気がビリビリと震える。


レンゲが踏み込み、鋭い斬撃を放つ。

刃は焔月の首筋を狙ったが、彼女は身じろぎもせず、最小限の足運びで紙一重にかわす。


「悪くない踏み込みだ。だが……軽い」


返す刃を、焔月は鞘で軽く受け流す。金属がぶつかる衝撃が、レンゲの腕を痺れさせた。

「……なに、この重さ……!」


背後から雷鳴が轟く。

「雷槍ッ!」

蒼白の閃光が路地を切り裂き、焔月を包み込んだ。


しかし、光が消えた時、彼女は微動だにせず立っていた。

衣すら焦げていない。

「面白い……雷使いか」

低い声に、わずかな愉悦が混じる。


リョウカは歯を食いしばり、さらに雷を纏わせて連撃を繰り出す。

刃は閃光のごとく襲いかかるが、全て寸前で弾かれた。

焔月は最小の動きで、それを受け流していく。まるで雷そのものを拒む壁のようだった。


「くっ……!」

レンゲが横合いから突きを放ち、同時にリョウカが雷撃を叩き込む。

二人の攻撃が一点に収束した――が、


「惜しいな」


焔月は刀を抜くことなく、鞘ごと横薙ぎに打ち払い、二人をまとめて吹き飛ばした。

石畳を転がる衝撃が全身を襲い、息が詰まる。


その時、リョウカの脳裏を冷たい疑念がよぎった。

(……この女、本気を出していない)


焔月がゆっくりと刀を抜く。

炎のように赤い刃が月光に照らされ、妖しく光を放った。

「では……少しだけ本気を見せよう」


空気が一瞬で凍りつく。

視界が歪み、次の瞬間、焔月は二人の背後に立っていた。

何が起きたのか理解するより早く、リョウカもレンゲも膝をつき、剣を落としていた。

衣は裂かれ、手足はしびれ、完全に動けない。


「……終わりだ」

その冷たい声とともに、二人は捕らえられた。


豪奢な玉座の間。

赤い絨毯を焔月が歩み、その後ろに縛られたリョウカとレンゲが跪く。

王と重臣たちが見守る中、焔月は静かに言った。

「陛下。お望みの二人を捕らえて参りました」


老臣たちが顔をほころばせる。

「おお……あの二人をこうも容易く!」

「さすがは五剣将……」


ギルベルトとレオナードが前に進み、互いに目を交わす。

「……これほどの者を、焔月一人で捕らえるとは」

「どれほどの実力を隠している_____」


王はうなずき、審議が始まった。

判断が下されるまでに、そう時間はかからなかった。

やがて下された判決は――極刑。


告げられても、二人の表情は変わらない。

「我らは天将七傑______こうなればもうジタバタはせぬ。武将はこう死ぬべきだ」

レンゲの声は静かで、揺るぎない誇りを帯びていた。


リョウカも頷く。

「我らは戦場で生き、戦場で死ぬ。それだけだ」


その言葉に、ギルベルトとレオナードは目を細める。

「……まさに戦士の鏡」


「丁重に葬ってやれ。」


老臣たちがざわめいた。

「敵将に何を……!」

だが王は短く命じる。

「ギルとレオの言う通りにせよ。」


老臣たちは不満を隠さず、冷ややかに言い放つ。

「処刑の日まで牢に閉じ込めておけ」


地下牢。

冷たい石壁と湿った空気。松明の光が二人の影を揺らす。

リョウカもレンゲも、背筋を伸ばし、まっすぐ前を見据えていた。

戦士は、最後の瞬間まで背を曲げない。

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