第二十二話 【無明砦攻防戦・後編】
無明砦の重厚な門が完全に開かれた瞬間、蒼月国と帝国の猛将たちの熾烈な戦いの舞台は、漆黒の闇に包まれた。
月明かりが冷たく石壁を照らし、闇に沈んだ空間に張り詰めた緊張と殺気が満ちていた。
帝国軍の猛将三人。
レオナード・クレスト――正統派の大剣使い、その剛力は猛獣の如く荒々しい。
ギルベルト・アッシュフォード――炎を纏う戦斧の豪傑。振るう度に斧身から炎が迸り、敵を焼き尽くすかのようだ。
雷槍のセリーナ・エリュシオン――冷徹な女将軍。雷の魔力で攻撃と防御の両方を操る。
蒼月国の守り手三人。
神楽ジン――蒼月刀《真顕》の使い手にして国王、軍師。冷静沈着でありながら、攻撃には確固たる意志が宿る。
烈剣士レンゲ――双剣の使い手にして魔力を練り込み、一撃の威力を爆発させる技巧派。猫獣人の血を引く俊敏な戦士。
弓術のユナ――氷槍の使い手で、氷の魔法陣を展開し戦局を有利に導く冷静な戦術家。
彼ら三対三の対峙は、息を呑む静寂の中で、まるで運命の幕開けを告げるように始まった。
「さあ、始めるぞ」
ジンは蒼月刀《真顕》を抜き放ち、刀身を月光に煌めかせた。
「負けるわけにはいかん」
彼の目には戦いへの冷徹な覚悟が燃えていた。
対して帝国の猛将たちは、勝ち続けてきた自信と誇りを胸に戦場へ挑む。
「獣人の牙もここで折ってやる」
ギルベルトは戦斧を肩に担ぎ、燃え盛る炎を纏わせながら鼻息荒く叫んだ。
レオナードは静かに大剣の柄を握り、冷静に敵の動きを見極めていた。
「この一撃で決める」
彼の中で、勝利の確信が膨らんでいく。
セリーナは雷槍をしっかりと握り、狙いを定めた。
「一瞬の隙も見逃さないわ」
冷たく研ぎ澄まされた感覚が彼女の動きを支配していた。
夜の闇に最初の雷鳴が響く。
セリーナが雷槍を振りかざし、槍先から放たれる雷光が鋭く走った。
「雷鳴穿つ!」
雷の刃はジンの蒼月刀《真顕》に襲いかかる。
ジンは一瞬の間合いを計り、刀身を変形させた。
刀は大太刀のように長大に伸び、雷の閃光を受け流す。
「さすがは雷槍……だが俺も黙ってはいない」
彼の眼差しに迷いはない。
ギルベルトはそれを見て、両手に炎の戦斧を構える。
「焼き尽くす時が来たな!」
振り下ろされる斧の刃は燃え盛り、大地に激しい振動を走らせた。
ジンはその攻撃を太刀で受け止め、一歩後退しながら冷静に計算する。
「この斧、炎の魔力を纏っている。油断は禁物だ」
背後からはレンゲが疾風のように駆け抜け、双剣を閃かせる。
魔力を集中し、一撃の威力を高めていた。
「今だ!」
レンゲの一振りがレオナードの防御の隙を突き、鋭い切り裂きが入る。
レオナードは大剣を横に払って応戦。
「速い……だがまだまだ!」
彼は己の剛力と技術で猛攻を返し、激しい剣戟が火花を散らす。
ユナは遠くから弓を構え、静かに魔法陣を展開した。
氷の結界が大地に広がり、辺りの気温が急激に下がる。
「氷槍陣――展開!」
彼女の放つ矢はセリーナを狙い、雷槍で矢を打ち落とされながらも動きを制限していく。
「動きを封じる……いい試みだ」
セリーナは地面に槍を突き刺し、雷の輪を形成。魔力を引き寄せ、次の一手を準備する。
ジンは再び踏み込み、蒼月刀の奥義を解放する。
「蒼牙解放――!」
刀身は一瞬で蒼黒に染まり、斬撃が空間を裂く。
斬撃はギルベルトの防御を突き破り、その腕を深く裂いた。
「ぐ……!」
ギルベルトは炎を揺らし、咆哮をあげて斧を再び振りかぶる。
レンゲはレオナードと激しくぶつかり合い、互いに一歩も引かぬ剣戟を繰り返す。
「負けるわけにはいかない」
レンゲの双剣は魔力を宿し、一撃ごとに重みを増していく。
レオナードも猛将たる所以を見せつけ、彼女の攻撃を幾度も受け止める。
「お前の力、認めるがな!」
彼の大剣からは圧倒的な力が迸った。
セリーナは雷撃の嵐を起こし、ジンとレンゲを包囲しようとしたが、ユナは氷の矢を放ち続け、雷の動きを封じ込める。
「氷槍陣が、戦況を変えている……!」
彼女は冷静に戦局を把握し、チームの柱となっていた。
時間が経つにつれ、双方の疲労は深刻だった。
しかし、ジンは攻撃の手を緩めず、最後の一撃を狙う。
「これで終わりだ!」
彼の大刀が振り下ろされ、二人の猛将の防御を破る。
深い斬り傷がレオナードとギルベルトの体を刻んだ。
「くそ……まだ終わらん」
レオナードは呻き、痛みを堪えながら剣を握り直す。
ギルベルトも苦悶の表情を浮かべたが、斧を再び構えた。
レンゲとユナは冷静に状況を判断し、撤退の合図をジンに送った。
「ジン様、撤退を!」
「了解だ。全員、退くぞ!」
三人は素早く無明砦の奥へと退き、守りを固めた。
夜の闘技場に残されたのは、激しい戦闘の痕跡だけだった。




