第四話:黒鉄の侵攻
蒼月の小村、ローク谷に朝日が差し込む頃。
警鐘が鳴り響いた。
「——東の丘に、旗印が見える!あれは……帝国の軍勢ッ!」
見張り台から叫ぶ声に、村人たちは慌てて立ち上がる。
子どもを抱えて避難する母、武器を手に集まる男たち。
だが皆、その表情には不安が濃く刻まれていた。
「……来たか。やっぱり、動きが早いな」
ジンは歯を食いしばりながらも冷静だった。
——昨日、帝国の国境警備兵が“亜人の集落を扇動する人間がいる”と報告をあげた。
それが、今回の討伐軍派遣に繋がったのだ。
「戦うしかない。でも、数が違いすぎる……!」
そう叫ぶ若者に、ユナが静かに言った。
「逃げ場はない。ならば、守るしかない」
そしてジンもまた、鋭い眼差しで言葉を紡いだ。
「この村は、ただの亜人の集落じゃない。“誇り”がある。この地で生きる者のために、俺たちは立たなきゃいけないんだ」
ユナが頷き、蒼月組の仲間たち——ガロウ、リョウカ、レンゲ
が各所へ散っていく。
「布陣完了まで三十分……それでいけるか?」
「……やるしかないさ」
ジンは剣を構えた。
その背後には、村を守る覚悟を決めた十数人の戦士たち。
そして、戦端が開かれた——。
◆
地響きを鳴らしながら進軍する帝国の討伐部隊。
その中に、一際大きな影があった。
黒鉄の盾を携え、全身を重装甲で覆った獣人の男。
虎のような気迫と、鋼の意志を持つ者——その名を、ガロウという。
彼は蒼月組の一員でありながら、かつて帝国の戦場に単身赴き、戦い続けていた放浪の猛将だった。
「……あの旗印、見覚えがある。あれは、“第六鎧軍団”。人間ども、よくもまぁ懲りずに……」
その瞳に宿るのは、怒りでも恐怖でもない。
——静かな闘志だ。
「……そろそろ、帰る時だな」
ガロウはゆっくりと、帝国軍の前に歩み出る。
彼の姿に、帝国の先鋒がざわめく。
「獣人……!? あの装甲、まさか……“不壊の壁”!? 伝説のガロウだと……?」
その瞬間、戦場の空気が変わった。
「おい、どういうことだ!? あいつは帝国との戦で死んだと……!」
「いや、あれは本物だ……!」
どよめく兵士たちを尻目に、ガロウは構えを取る。
「ここは通さねえ。この先に進みてぇなら……」
彼は巨大な盾を地面に突き立て、獣のように咆哮した。
「俺を、超えてみろッ!!」
その咆哮を合図に、ローク谷を守る戦いが始まった。
蒼月組の猛将・ガロウが、戦線に復帰。
次なる激戦の火蓋が、今まさに切られようとしていた。




