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第十二話 《銀翼の選択》

リュミエル王都リュクス・ヴェルトの玉座の間は、静謐と緊張に包まれていた。

 神楽ジンの言葉が空気を裂くように響いた後、宮廷の誰もが言葉を失っていた。

 蒼月刀《真顕シンケン》から放たれる淡い蒼光は、まるで静かなる戦の鐘のように、エルフたちの心に問いを投げかけていた。


 ――これは、共に立ち向かう意志を示す光なのか。

 それとも、滅びを見据えた懇願なのか。


「……興味深い」


 静寂を破ったのは、六耀将筆頭にして“光の矛”と呼ばれるルミナ・セリスだった。

 銀の髪を揺らしながら、玉座前に進み出る。瞳には冷静と激情の両方が揺らめいていた。


「陛下。かの者の言葉、脅しではありません。理の果てを見通す者の目をしています。……それに、この刀――只者のものではありません」


 彼女の言葉に続くように、フェルノート・ラグヴィールが舌打ちしながら立ち上がった。


「チッ、帝国の連中がまた暴れ出すとはな。なら、黙って潰されるほど俺たちは温くない。……あんたの言う通りだ、蒼月の剣士。だが、連邦を動かすにはもっと“本音”が要るぜ?」


 フェルノートの視線がジンを射抜くように捉える。


「帝国がリュミエルを攻めるって確証は? あんたの言葉だけじゃ、動けねぇのが政治ってやつだ」


 その言葉を受けて、神楽ジンはわずかに笑みを浮かべた。

 迷いなき目で、銀翼宮の重臣たちと六耀将を一人一人見渡す。


「証拠など、戦が始まってからでは遅い。帝国はすでに“蒼月を試金石”と見ている。敗れれば、リュミエルを制する自信を得る。勝てば、そのまま南進するのみ」


「連邦がこの先も『綺麗事』の理想を掲げるなら、戦わずして滅ぶ日が来る。だが――」


 その時、ジンの背後に立っていた少女――ユナが、歩み出た。


「私たち蒼月は、それでも抗います。弱き者を守るために、奪われぬために。帝国の“理不尽”に、牙を剥く覚悟がある。……貴方たちは、どうですか?」


 ユナの瞳には、幼き頃に村を焼かれた記憶が燃えていた。

 その声には、血と涙を知る者だけが持つ、揺るがぬ真実があった。


 重苦しい沈黙が、再び玉座の間を支配する。

 やがて、王アステリオンは静かに目を閉じ、言葉を選ぶように口を開いた。


「……六耀将よ。それぞれの見解を述べよ。国を動かすに値するかどうか、君たち自身の目で見極めよ」


 一同が頷き、それぞれが進み出た。


 風を読む狙撃手――エリオット・グランディは短く言った。


「帝国の動きには“風の歪み”がある。嵐の兆し。……蒼月の報せに矛盾はない」


 氷の守護者、シア・フレイネールは静かに続けた。


「……戦わなければ、凍土さえ砕ける。防衛のみでは、守れぬものがある。協調が必要です」


 雷槌の豪傑、ザラッド・ヴォルケーンは拳を鳴らしながら叫ぶ。


「面白ぇじゃねぇか! 帝国にゃ借りがあるんだ。今こそ返す時ってことだな!」


 そして最後に、影の鎌使い・ネイア・ミルエルが囁くように言った。


「戦の香りはもうすぐそこ。……最も賢い選択は、戦場を“選ぶ”こと。彼の者の提案は理に適う」


 アステリオン王は、六耀将の声を聞き、ゆるりと立ち上がった。

 王の背には連邦の象徴たる《銀翼の紋章》が煌めく。


「神楽ジンよ。蒼月刀《真顕》を携え、未来を求めたその胆力、王として認めよう」


「――リュミエル連邦は、蒼月国との防衛同盟を締結する。共に、帝国の暴威に抗おう」


 その言葉に、銀翼宮は騒然となった。

 だがその中で、確かに、何かが動き出していた。


 それは希望という名の風。戦の始まりの音。

 そして、新たなる盟の誕生――


 静かに、神楽ジンは刀を鞘に納めた。

 その顔には、僅かに安堵の色が浮かぶ。


「ありがとうございます。これで、抗う礎が築ける……」


 だが同時に、彼の瞳の奥では、遥か西方の地で今まさに進軍を開始した帝国軍の“黒き影”が、脳裏をよぎっていた。


(間に合え……この連携が、戦場に届く前に)


 その想いを胸に、蒼月とリュミエルの新たなる運命が結ばれた。

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