第七話 混沌の戦場、蒼月の刃と黒鉄の魔将
ジンの蒼月刀はその柄を強く握られ、戦いの鼓動を刻んでいる。ユナの掌からは既に魔力の奔流がほとばしり、指先が震えながらも確かな意志を示していた。
デュランはゆっくりと動き出す。黒鉄の鎧が軋み、周囲の空気をねじ曲げるような重圧を帯びて。
ユナは一瞬のためらいもなく、両手を広げた。
「氷槍陣・蒼刃氷華」
彼女の声に応じるように、足元の大地に細密な魔法陣が鮮やかに浮かび上がる。薄氷のような結界から次々と鋭く尖った氷槍が噴き出し、凍てつく寒気とともに戦場を切り裂いた。
氷槍はまるで生きているかのように軌道を変え、デュランの動きを封じようと襲いかかる。
だが、魔将は大きな黒鉄の盾を翳し、一振りで氷槍を砕く。砕け散る氷片が周囲に飛び散り、冷たい風が舞う。
「まだまだだな」
彼の声は冷たく、嘲るような響きを帯びていた。
ジンは瞬時に距離を詰め、蒼月刀を構える。
《______蒼月一閃》
刹那の間に何度も振り抜かれる斬撃は、魔力を帯びて空間に蒼い刃の軌跡を描き出す。剣の閃光が煙と硝煙に混じり、周囲を明るく照らした。
だが、デュランの剣は重く、鋭く、ジンの攻撃を受け止めた。剣と剣がぶつかり合う音が鋭い金属音となって戦場に響き渡る。火花が散り、地面が裂け、衝撃波が波紋のように周囲へと広がる。
ジンの筋肉が悲鳴を上げる。だが、彼の瞳は揺るがず、凛と輝いていた。
一方、ユナは氷晶の結界を広げ続けている。複雑な魔法陣が彼女の周囲を取り囲み、その中から幾重にも凍てつく冷気の刃が飛び出す。
「この氷槍陣は攻防一体。敵の動きを縛りつつ、ジンの攻撃を援護する」
ユナの額に汗が滲む。内心では恐怖が膨らんでいた。魔将デュランの力は想像以上で、彼女の魔力を尽くしてもなお敵を完全に抑え込むことはできない。
だが、ジンを守りたい、その思いだけで彼女は必死に魔法を展開した。
「行って、ジン!」
ジンは振りかぶった蒼月刀をさらに加速させ、何度も斬り込む。しかし、デュランの剣撃は重く鋭く、彼の一撃一撃がジンの攻撃を跳ね返し、圧倒的な力の差を見せつける。
デュランは黒鉄の剣を大きく振りかぶり、その一撃はまるで大地を引き裂くかのような轟音を響かせた。
「暗黒闘法《影裂き》」
デュランの体が黒い闇に包まれ、瞬間的に複数の影の残像が周囲に飛び散った。彼の剣は一瞬にして複数の斬撃を繰り出し、ジンの防御をかいくぐって襲いかかる。
ジンは必死にそれらを防ぎつつ、斬撃の隙を突いて反撃を試みる。
だが、闇の如き残像の連撃はまるで嵐のようで、彼の体力と精神を削り取っていった。
ユナは焦燥を感じながらも再び魔法陣を展開する。
「蒼月の刃よ、凍てつく刃となれ」
結界が輝きを増し、魔法陣が再びデュランの動きを縛ろうと襲いかかる。しかし、彼は影裂きの闘法でそれらをかわし、容赦なく二人に斬撃を叩き込んだ。
ジンは一瞬の隙を突かれて肩に深い傷を負い、ユナも攻撃を防ぎ切れず腕に裂傷を負う。二人は痛みを堪えながらも立ち続けた。
「まだ終わらん……俺たちはお前を倒す」ジンの声には、苦痛を押し殺した強い決意があった。
そこへ、遠くから轟音が響く。砂塵が巻き上がり、烈炎の武人カンロウが拳に炎を纏い駆けつけた。
「ジン! 遅れてすまない!」
三人が揃い、戦局は新たな局面へと突入した。
カンロウの炎の拳が炸裂し、デュランの防御を切り裂く。彼の猛攻が敵の隙を生み、ユナの氷槍とジンの蒼月一閃が連携する。
炎の熱と氷の冷たさが交錯し、戦場に凍てつく熱気が漂う。
デュランは黒鉄の剣を高く掲げ、暗黒の魔力を纏った斬撃を放った。
それは雷鳴のように轟き、三人はその圧倒的な力に畏怖するのであった




