第七話 五剣将ギルベルト、最強の炎
焦土と化したバスト村にて、ついに蒼月隊とグランディア帝国五剣将ギルベルト・アッシュフォードが正面から激突した。
「俺の《轟裂・灰塵斧》を受け止めるだと……?」
ギルベルトは信じられぬように大斧を構え直し、目前の敵を睨む。受け止めたのは――天将七傑の一人、玄武ガロウ。
「フン……その程度の一撃で、俺の“壁”が崩れると思うなよ」
黒鎧を軋ませながら、巨盾を掲げるガロウ。地に根を張るような構えはまさに鉄壁、蒼月国が誇る守護の象徴である。
「援護は任せて。幻惑陣、展開するわ」
背後で静かに呪文を紡ぐのは、花霞シュイエン。揺らめく幻影の霧が戦場を包み、敵味方を惑わせる。
「うろたえるな、前を見る!」
ギルベルトが叫び、霧の中に斧を振るうが――その一瞬、視界が歪み、彼の背後に回った一閃があった。
「《蒼月一閃》!」
――神楽陣の剣が、ギルベルトの背を斬り裂く。
「ぐっ……!」
裂けた鎧から血が噴き出す。だが、それでもなお、ギルベルトは倒れなかった。
「ぬるい……ぬるいぞ、神楽陣!」
ギルベルトは自らの血を両手で握り潰し、斧に塗りつける。そして叫ぶ。
「《灰塵顕現・獄炎斧陣》――!」
地が裂け、赤黒い焔が噴き上がる。それは一度焼き払われた者にしか使えぬ、絶望の奥義。死地から蘇る焔の斧舞。
「全員下がれ! これは……大技だ!」
セイリオンが叫ぶと同時に、雷迅リョウカが上空から突撃。
「だったら――私が散らすまでよ!」
《迅雷翔舞》が再び発動。リョウカの雷撃がギルベルトを囲む獄炎を乱す。
「お前たち……!」
ギルベルトの怒りが頂点に達する。
その刹那。
「ナダル、ザイア、今だ!」
陣の声に呼応し、紅蓮の双牙が動いた。
「紅蓮爆牙――!」
二人が交差し、左右から同時に突撃。火と炎が噛み合い、獄炎の渦に割って入る。
「この炎は……俺たちの痛みだ!」
「燃やすのは、過去だけで十分ッ!!」
交差した双槍と炎拳が、ギルベルトの胸を貫く――!
「が、はッ……!」
巨体が、崩れた。
ギルベルトが叫ぶ___「俺の役目はこれまでだ、全軍退却!」
さすがに歴戦の将軍、退却も見事なものだった。
静寂が訪れた焦土に、勝利の風が吹いた。
「……終わった、か」
神楽陣が剣を収める。勝利の実感が、胸にじわりと広がる。
だが――
「司令、急報!」
伝令の声が響く。陣が振り返る。
「西方の要衝、《カイラン峡谷》が……グランディア帝国軍により制圧されました!」
「なに……?」
勝利の喜びが、一瞬にして凍りつく。
「やつら……ギルベルトは囮だったのか……!」
セイリオンの瞳が鋭く光る。
戦乱は、まだ序章に過ぎなかった。