表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/77

第五話 焦燥と警告、燃ゆる東方

 蒼月隊が氷霧の砦を制圧してから三日後――。


 戦況は、静かに、だが確実に次の段階へと移っていた。


 「リュミエルが西部戦線を引いたとなると、次に動くのは――」


 砦の作戦室。地図の前に立つセイリオンが指差したのは、グランディア帝国の東端、ザイド平原だった。


「ここは……かつて帝国と獣人族の間で激戦があった地ですね」


 ミナギが資料を手に呟く。その視線の先には、炎に包まれた村の記録があった。


「帝国が使った“焦土戦術”……あれがまた繰り返されるってのかよ」


 烈炎・カンロウが唸るように拳を握りしめた。


「その可能性は高い。グランディアがこの隙を見逃すとは思えない」


 陣の言葉に、隊員たちが沈黙する。


 そんな中、情報担当のミナギが報告を口にした。


「帝国軍、“五剣将”の一人――ギルベルト・アッシュフォードの部隊が、すでにザイド平原南端の村々を焼き払ったとの報せがあります」


「ギルベルト……あの“灰塵斧”か」


 ガロウが顔をしかめた。


 セイリオンが補足するように言う。


「巨大な戦斧を振るう破壊の将。焼き尽くす戦術に長け、後に何も残さない。次の狙いは、我が方の東部前線、バスト村と見られる」


「そこには……!」


 リョウカが声を上げる。


「我ら蒼月組の予備戦力が駐留してる! それに、まだ避難してない亜人の集落も――」


 空気が一瞬、重くなった。


「ならば、動くしかない」


 陣の声が、その場を引き締める。


「蒼月隊を二部隊に分ける。ユナ総長に伝えて、蒼月組本隊の後衛支援も合わせて、速やかに救援へ向かう」


 ユズハンが手を挙げ、冷静に口を開く。


「先行奇襲は我々“天将七傑”が担うべきだ。相手は帝国五剣将の一角。並の兵では押し戻せん」


「了解。では……第一突撃隊をシンとカンロウ、第二はガロウとユズハン。ミナギは情報収集、リョウカは空中遊撃」


 「わかったわ!」


 「任された」


 仲間たちが次々に応じる。


 その時――戦場の方角から、爆音が鳴り響いた。


「っ……これは!」


 皆が身を乗り出す。


 遠方の空が赤く染まっていた。炎が、村を包んでいる。


 「間に合わなかった……!?」


 陣が地図を握りしめ、目を見開く。


 だが次の瞬間、ミナギが鋭く声を上げた。


「まだ完全にやられてはいません! この村を守るべく、“ある部隊”が立ちはだかっています」


「……誰だ?」


 陣が問い返す。


 ミナギは静かに答えた。


「“炎の精鋭”――《紅蓮の双牙》ナダルとザイアです」


 それは、炎を操る双子の兄妹。かつて亜人族を焼いた帝国軍への復讐を誓い、蒼月に忠誠を捧げた戦士たち。


「ナダルが残り火を制し、ザイアが焔槍で敵を穿つ……!」


 リョウカが目を見開いた。


「だが、相手がギルベルトじゃ、持たない……!」


「間に合わせるぞ! 全員、出撃準備!!」


 陣の号令とともに、蒼月隊は戦場へ向けて再び走り出す。


 東の空が紅蓮に染まり、焔と灰が渦巻く中――次なる激戦の火蓋が、静かに、確実に切られようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ