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第二話 忍び寄る策謀、揺れる忠義

蒼月国のルオ・セイランに、陰鬱な風が吹いたのは一月後の事だった。蒼天に浮かぶ雲の切れ間から射す光はどこか鈍く、神楽陣は政庁の中庭にて、戦地から戻ったばかりの鎧黒がいこく・ユズハンの報告を受けていた。


「……どういうことだ? ガロウが――」


 陣の声が震えた。天将七傑の一人、玄武・ガロウ。重装の盾役として幾度となく最前線に立ってきた頼れる仲間が、敵軍の策にはまり孤立したというのだ。


 それは、南の山岳地帯にて発生したエルフ軍の侵攻に対抗すべく派兵された際の出来事だった。ユズハンが語るところによれば、ガロウは戦況の流れを見誤り、突出しすぎたがゆえに包囲され、退路を断たれた。


「彼は最後まで脱出を試みました。しかし……」


 ユズハンの拳が震えていた。


「――捕らえられました。リュミエルの六耀将《氷の姫君》シア・フレイネールの手によって」


 その場にいた全員が凍りついた。激戦のさなか、奮戦むなしく捕らわれた盾将。命こそ奪われていないが、それが逆に蒼月国に与える衝撃は大きかった。忠義を貫いた男の失策、そして失態は、士気を揺るがすには十分すぎた。


「……私が止めるべきだった」


 ユズハンの声が低く、苦悶に満ちていた。


「いや、俺の指揮が甘かった。――責任は俺にある」


 陣はぎりっと奥歯を噛み締めた。

 天将七傑はただの武人ではない。彼らはこの国の象徴であり、希望だ。ガロウの失敗を許せぬ者もいるだろう。だが陣は、彼を責める気にはなれなかった。


「ユナ、会議を開く。_____全員を集めろ!」


 静かに、だが確かな意志をもって、陣は言った。


「……すべてを話してくれ。今、俺たちはどう動くべきかを」


 * * *


 数刻後、《蒼月組》の総長ユナ・グレイスと雷迅・リョウカ、副官のセイリオン、そして天将七傑たちが政庁の作戦室に集った。


 地図の中央、ガロウが捕らわれたとされる渓谷地帯には赤い印が記されている。


「敵は私たちの性格をよく知っている。ガロウの突撃癖、我々の反応速度、そしてこの国の――怒りの性質まで」


 軍師セイリオンが静かに言った。


「これは誘いです。彼を取り戻そうとすれば、さらなる罠がある。軍全体を揺さぶるための、極めて冷酷な知略です」


 雷迅・リョウカが机を叩く。


「分かってるよ、けど黙って見てろってのか!? アイツは仲間だろ!」


 その言葉に皆が押し黙った。

 仲間であるがゆえに、動けぬこともある。だが――


「……動くべきだ」


 陣の声が、戦室の空気を一変させた。


「だが正面からではない。セイリオン、君の策で奴らを欺け。ガロウを取り戻し、なおかつ無駄な損害は出さない。出来るか?」


 セイリオンは一拍、目を閉じてから言った。


「策はある。ただ、成功の保証はない……だがやる価値はある」


「よし。――ガロウは俺たちが救い出す。必ずだ」


 戦火の中、絆が試されようとしていた。

 それは蒼月国の運命を左右する、大きな決断の始まりであった。

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