第十話:覚醒せし蒼月の誓い
ローク谷を後にしたジンたちは、情報のあった「東の隠れ里」へと向かっていた。雪解けの小川がさざめく静かな山道を進むと、やがて霧に包まれた小さな村落が姿を現す。
そこに、彼はいた。
白銀の髪を風に揺らし、端正な顔立ちの青年が、子どもたちに木剣の型を教えていた。戦の気配を一切感じさせぬ、穏やかな眼差し。
ジンは、そっと言葉をかける。
「……《白銀の剣士》、セイリオン=アルフェクトか?」
男の動きが止まる。そしてゆっくりと振り返り、ジンを見据えた。
「——誰がその名を?」
「俺はジン=カグラ。蒼月の旗のもと、獣たちとともに戦う者だ。君に会いに来た」
セイリオンはしばし沈黙し、やがて微笑んだ。
「……なるほど。ならば、その目に宿る炎に免じて、少しばかり話をしよう」
その晩、囲炉裏の前で、二人は長く語り合った。
ジンがこの世界に現れ、ユナと出会い、蒼月国を立ち上げるまでの経緯。亜人たちが抱える絶望と、抗いの志。セイリオンは黙って聞いていたが、やがて言った。
「君の言葉に、誇りを感じた。……ならばその未来を、私の手で支えよう」
ジンは立ち上がり、改まって言葉を投げかける。
「俺の右腕として、戦ってほしい。知略と剣をもって、この混沌を切り裂いてくれ」
セイリオンは静かに膝を折り、礼をもって応える。
「この身、この知、この剣。すべてを捧げよう。ジン=カグラ、貴君の覇道に」
ユナはそれを見て、微かに目を細めた。
「……蒼月は、強くなるわね」
そして数日後——
霧深き《翠月の丘》に、ユナ率いる亜人たちの中核部隊が集結する。
そこには、すでに名を馳せ始めていた者たちの姿があった。
・すばしこさと鋭い感性を持ち、ユナのもとで鍛えられた遊撃剣士。——レンゲ
・獣の壁たる堅牢な守護者——ガロウ
・風よりも速く拳を撃ち込む、狼の拳闘士——シン
・毒を纏う幻術の使い手、冷静な美貌の剣士——シュイエン
・灼熱の戦場を駆ける炎の猛虎——カンロウ
・戦場の機微を読み解く、冷静沈着な槍士——ユズハン
・そして月の影を纏い、暗殺と諜報の達人——ミナギ
ユナが静かに歩み出て、その前に立つ。
「諸君。これより、我が“蒼月”を束ねる精鋭として、あなたたちを任命する」
彼女の手が、一本の古代槍を掲げる。それはかつて白虎族の王が持っていたとされる、象徴の槍——《霊牙》。
「この誓いのもと、あなたたちは“天将七傑”として、獣王と蒼月の未来を背負うこととなる」
ユズハンが一歩前に出て、短く礼をした。
「名誉にございます。我ら、命を懸けてお応えいたします」
ガロウも腕を組みながら静かにうなずく。
「この命、ジン様とユナ様に預ける」
リョウカはくすりと笑って、ジンに視線を向けた。
「ようやく、本格的に“面白く”なってきたわね」
ジンはその場に立ち、全員を見渡すと、一言だけ口にした。
「ありがとう。これより、俺たちは——戦場の狼となる」
天将七傑、ここに誕生。
その旗の下、蒼月国は真の反攻の狼煙を上げた。
そしてジン=カグラという異世界の来訪者は、ようやく真に仲間たちとともに、「国」としての最初の一歩を踏み出すのだった——。