『第6回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品集
カレンダーが気になるお年頃
「なあ花恋、来週の日曜暇か?」
暦から誘ってくるとは珍しい。
幼なじみで高校でも同級生やってる見事な腐れ縁。
来週の日曜といえば私の誕生日、これは、アレだろう、お誕生日デートと言う奴に違いない。
花も恥じらう乙女の誕生日に暇か? と聞くのは正直どうかと思うが――――そういうデリカシーの無さのおかげでアイツは今でも彼女の一人もいないのだからある意味長所と言えなくもない。
私だけでいい。暦の良い所なら誰よりも知っている。駄目なところはその何倍も知っているけれど。
ベッドに寝転んで部屋のカレンダーをしばらくボーっと眺める。
ママから勿体ないから使ってねと押し付けられたヤツだ。危険生物カレンダーとか誰から貰ったんだよとツッコみたくなる。少なくとも女子高生が使って良いものではないと思う。
「誕生日デートかあ……」
ピンクの蛍光ペンで日付をハートマークで囲む。それだけでちょっぴりドキドキしている私は相当チョロい女だ。
「……なに着て行こうかな」
そうだ! 誕生日なんだしママに新しい服を買ってもらおう。美容室にも予約を入れておかないと。
「いよいよ明日なのね……」
長かった……何度見たかわからないカレンダーに必勝の文字を書き加える。
可愛い服も手に入った。髪型もバッチリだ。この二週間大好きな甘いものを我慢した私に死角は存在しない。間違いなく私史上最高の私だと断言できる仕上がり。
「ふふ、どんなエスコートをしてくださるのかしら、楽しみだわ」
――――などと浮かれてみたものの、相手はあの暦だ、期待したら裏切られるに決まっている。夢は見ない、現実は残念なものなのだ。デートが出来るだけで満足しよう。ハードルを地面すれすれの高さに設定する。伊達に幼なじみをやっているわけではないのだから。
「おはよう花恋! 悪いな付き合ってもらって」
「おはよう暦! 私こそ誘ってくれてありがとう」
本当は駅前広場とか時計塔の前で待ち合わせしたかったのだが、家が隣だし暦だし。
「それで、どこ行くの?」
「最近出来たショッピングモール」
ほほう! 暦にしては悪くないチョイスだ。買い物、食事、映画といったところだろうか? 王道だが実にデートっぽい。
服装や髪型に一切言及が無いのはマイナスだが、その程度は織り込み済み。その程度で凹んでいては付き合えない。
「それでさあ、来週妹の誕生日なんだけど花恋にプレゼント選んでもらおうと思って」
私は無言で暦の鳩尾を抉るように撃ち抜いた。