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6 厚遇される呪われた王女




 それから、私は国王夫妻や、マイケル第一王子の弟達にも挨拶をした。


 なんとこのマイケルという男、弟が四人も居るのだ。

 マイケルは二十三歳で、弟は二十歳、十八歳、十三歳、十一歳。

 何やら、国王マイルズの妻である第一王妃ナサリエと第二王妃ニコラが、交互に男の子を生んだのだという。


 そして、一家が一緒に居る様子を見ると、どうやら国王と第一王妃、第二王妃の関係性は良好のようだ。

 うちの国とは大違いである。


 その後の会食も、なごやかなもので、食事の質も申し分ないものであった。

 不思議なことに、私もマグネリアの王族と同じものを食べた。

 一人だけ切り方が雑にされているとか、量が半分にされているとか、そんなことはなかった。

 遅効性の毒も、多分入っていないと思う。


 マグネリアの食事は、とても美味しかった。

 魚介がふんだんに使われていて、そういえばこの国には大きな湖があったなと思い出す。

 味も、普通の塩味や、甘い味、辛い味とは違って、深みがある気がする。

 ヴィンセント王国のものと、何が違うのか、うまく言葉にできない。

 けれども、とても美味しい。

 つい、必要最低限のことを話す以外はもくもくと料理を食べてしまい、気が付くと、周りの皆がニコニコ微笑みながら私を見ていた。

 どうやら、私が料理を気に入っていることがバレてしまったらしい。

 ちょっと恥ずかしかったけれども、そこそこに会話もしていたし、マナー違反はしていないはずだ。

 美味しいワインのお替りをしてその場を濁しておいた。


 食後に与えられた私室に戻ったところ、その日のうちに、私の周りはマイケルの用意した使用人達で固められていた。

 老いぼれ侍従侍女達は、それぞれの適職に配置されたらしい。

 お婆ちゃん質は私の侍従侍女は荷が重いと言っていたし、配慮されてよかったねと素直に思う。


 ちなみに、マイケルにあてがわれた使用人達は、私を粘着質にいじめてくるのかと思いきや、優雅で優しい人達だった。

 私が暇そうにしていると本を用意してくれるし、マグネリア王国に関する軽い会話を提供してくれたりする。

 洋服を含め、ほとんど物を持ってこなかった私に、クローゼット一杯の洋服やお飾りを見せて「では、マイケル殿下が用意されたものを着放題ですね。きっと殿下も喜ぶと思います」とニコニコ笑ってくれる。

 体に当ててみると、明らかに胸が収まりきらなかったので、ちょっと気まずい時間がながれたけれども、「サイズを調整しますね。腕が鳴ります」と採寸をして、裁縫に取り組んでくれた。

 優しくされすぎて、この辺りでちょっと怖くなって、厚遇恐怖症の私はトイレで一人になって震えた。


 夜になると、マイケルが私の私室にやってきて、申し訳なさそうに、私が連れて来た護衛達はヴィンセント王国に帰すことにしたと告げられた。

 誰か傍に残したい者が居るかと聞かれたので、誰も居ないと伝えると、安心したような顔をしたので、思わず言葉が出てしまった。


「なぜ?」


 私がまっすぐに彼の目を見ると、その碧色の瞳に、わたしの紫色の瞳が映っている。

 マイケルは軽く目を見開いた後、思わずと言った様子で頬を緩めた。


「それは、なぜ私が彼らを追い払ったのか、ということですか?」

「……」

「それとも、なぜ彼らがあなたを害しようとしていることに気が付いたのか、ということでしょうか」


 護衛達は、私を害しようとしていた。


 多分、初めに私室に案内されたとき、一人でしばらくゆっくりしていたら、私はその隙に彼らに殺されていたのだろうと思う。

 隣国の第三王女が無事に王宮に到着したという安心感と、出迎えの準備をしなければならないという焦りで、あからさまに王宮内の者達は油断していた。その隙に、女一人を仕留めることなど用意容易であっただろう。

 マグネリア王国の王宮内に、ヴィンセント王国の第三王女の遺体が一つ。

 間違いなく、マグネリア王国は、遠路はるばる嫁ぐためにやってきた王女を暗殺したという汚名を被る。

 要するに、戦争の始まりである。


 しかし、マイケルは私を私室に案内した後、私からひと時も離れず、そのまま応接室に連れ去った。

 それ以降も、マイケルが信用する使用人に私を預けるまで、常に傍に居て私に気を配っていた。


 それだけなら、戦争を避けただけ、という理由で終わりだったのだけれども。


「……なぜ、優しくするの?」


 私の質問に、彼はなぜかとても楽しそうにしていた。


「遠くから来てくれたお嫁さんを大切にするのは、普通のことでは?」


 答えない私に、マイケルは穏やかな笑みを浮かべたまま、私の右手をとり、そっとキスをするフリをした。


「おやすみなさい。僕達の大切なお嫁さん」


 それだけ言うと、彼は私の部屋を去っていった。


 私は、彼に取られた自分の右手を眺めながら、不思議な気持ちで胸がいっぱいになっていた。

 言葉にしがたいこの想いは、一体何なのだろう。


 それにだ。


「私、誰と結婚するんだろう」


 私はまだ、私の結婚相手が五人の王子のうち誰なのか、誰からも聞いていない。



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