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27 なぜその思考に至ったのか


「それで、ヴィヴィ(十八歳)からモーリス殿下(十三歳)に求婚ってどういうことなの?」


 アイリス姉さまの素朴な疑問に、ハッと私は顔を上げる。

 暗い顔をしていたマイケルも、なぜかギラリと目を光らせた。


「だって、アイリス姉さまはこの国に居るほうが居心地がよさそうだから」

「! そ、それはどうかしら」

「その理由、私は知っています」

「えっ!? り、理由!? 知ってるの!?」

「はい。アイリス姉さまは……」


 私はそこで言葉を止め、すうと深呼吸をした。

 その様子を、なぜか周囲は、ごくりと息を吞みながら見つめている。


「マイクと恋仲――なん、ですよね……」


「違うわよ!!!!」

「違う!!!!」

「そうなの!!??」


 三者三様に驚いた様子の高貴なる面子。

 そして、室内に配置された護衛達も、なぜか同様に目を剥いている。「これだけ露骨な王太子殿下のアプローチが伝わっていない……だと……?」「夜這いまでされたのに……?」という驚愕に満ちた声も聞こえる。一体なんのことだろう。


「だから私は考えました。私という存在が、アイリス姉さまへの心理的追跡(ストーキング)を続ける手段を」

「もっとほかに美しい言い方が沢山あるんじゃないかな、ヴィオレッタ」

「……。とりあえず、続けて」


「最初は、ミゲル殿下(二十歳)に頼み込もうかと思いました。この身を捧げるので、どうか結婚してほしいと」

「絶対にだめだ!!!!」

「……。なんだか勇ましいわね」


「ですが、ミゲル殿下ではだめだと悟りました。彼が私に話しかけてくるのは、崇拝する兄マイクの身代わりになるためです。マイクがアイリス姉さまと幸せな結婚をするなら、ミゲル殿下は私にひとかけらの興味も持たなくなるはずです」

「それはどうだろうか……いや、君が言うのだからそれが真実だな。そういうことにしておこう」

「……。とりあえず、続けて」


「そこで、メルヒオール(十八歳)に求婚することを考えました」

「えっ!?」

「えっ?」

「えっ?」

「ゴホゴホゴホ。いいえ、続けて頂戴」

「……? メルヒオールは、私の初めての人間のお友達です。頼み込めば、嫌な顔をしながらも結婚してくれるかもしれません。ですが、メルヒーの好みの女性はアイリス姉さまなので、私は好みではないと思うんです」

「ゲッホゲホゲホゲホゲホ」

「アイリス姉さま!?」

「無垢な顔でとんでもない爆弾を投下するな君は」


 何もないところでせき込んだアイリス姉さまに、私は仰天し、マイケルは悟りを開いた表情で私達を見ている。

 そして、室内に配置された護衛達は、なぜか下を向きながらプルプルと笑いをこらえている。「甘酸っぱい……」「なんという桃色暴露トーク……」という震える声も聞こえる。一体なんのことだろう。


「そこで結論に至ったのです。これはもう、未婚で想い人が居ないモーリス殿下(十三歳)にお願いするしかないと」

「思考は一貫しているかもしれないけれど、いやな結論ね」

「マクシム殿下(十一歳)にお願いするよりは人道的かなって思うんです、アイリス姉さま」

「我が弟ながら、二人とも君の求婚を断らないであろうことが恐ろしいよ」

「! じゃあ、マイク……」

「君は僕と結婚するんだから、もう黙っていなさい」

「えっ?」

「それで、サヴィリア=サスペニア侯爵令嬢。君は一体、何がしたかったんだ」

「えっ、マイク? マイクはアイリス姉さまと」

「ヴィヴィは黙っていなさい」

「アイリス姉さま?」


 私は両脇のマイケルとアイリス姉さまの腕を揺さぶったが、二人はこちらを見てくれない。

 必至に服を引っ張る私に悶えるような顔をしているので、私の訴えに気が付いているはずなのに、答えてくれないのだ。

 とんでもない意地悪である。


 そんな最中、マイケルに問いただされたサヴィリアは、重く閉ざしていた口を開いた。


「占い師が、そう言ったんです」

「占い師?」

「……この国の、魔女です」


 『魔女』と言う言葉に、ピクリとマイケルが反応した。

 アイリス姉さまも、目を見開いている。


 私はなんとなく察するところがあったので黙っていた。

 なんとなくというか、彼女は魔女しかもっていないであろう入門セットの一つを持っていたわけだし、どこかの魔女と接触したのだろうなとは思っていたのだ。


「魔女が言ったんです。マイケル殿下が……というより、この国の王族がヴィオレッタ様と結婚するのは、とても危険だと……」

「どういうことだ?」

「その人が」

「その人が?」


「その人が――ヴィオレッタ様が、魔女だからです!」

「えっ、違いますけど」


 シンと静まり返った室内。


 サヴィリアは目を点にして私を見ている。

 アイリス姉さまは、物言いたげに黙っている。

 マイケルは、困惑した様子で私とサヴィリアを見ている。


 私は三者三様のその様子を見ながら、怒髪天である。

 どういうことだ。

 三人とも、もしかして私が魔女だと思っていたのだろうか?


「……僕は君は魔女なのかなって薄々思っていたんだけど、ヴィオレッタ」

「えっ。ひどいですマイク。私はあんなのじゃありません」

「あんなの」

「だいたい、マイクが違うって言ったんですよ」

「うん?」

「魔女は人を好きにならないじゃないですか」


 目を丸くしたマイケルと、アイリス姉様、サヴィリアに、私はプンスコと怒りをあらわにする。


「私はアイリス姉さまが大好きです。だから、魔女じゃないです」


 それだけ告げると、私はうっぷんを晴らすために、アイリス姉様の細い腕にしっかりと抱き着いた。



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