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26 ご令嬢は一体なにをしていたのか


 騒動から三十分後、私はご令嬢と共に、マイケルとアイリス姉様の事情聴取を受けていた。


 ご令嬢は、ちゃんと着衣している。

 マイケルがその場にいた侍女に頼んで、メイド服を用意したのである。


 彼女がメイド服を着ることになったのには、理由がある。

 この王宮内に彼女が侵入していることを知る女性は、私とアイリス姉さま、それにアイリス姉さまの後ろに控えていた侍女だ。

 そして、私の服もアイリス姉さまの服も、見事にサイズが合わなかったのである。


 私の服は、主に胸囲のところで。

 アイリス姉さまの服も、主に胸囲のところで。


「メイド服もお似合いです、万年筆令嬢」

「どんな名前なのよそれ!?」

「花瓶令嬢がいいですか?」

「名前で呼びなさいよ」

「サヴィちゃま」

「変に距離を詰めてこないでよぉ!!」


 矜持を捨てきれていない口調ではあるものの、実際にはガクガク震えているご令嬢に、私は微笑みを絶やさない。


 彼女はサヴィリア=サスペニア。

 マイケルとかつてお見合いをしたことがある侯爵令嬢だそうだ。

 たいそうな美少女(自称を含む)である。


 私が彼女を暗殺犯だと申し立てているので、一応、彼女の手は縄で拘束されている。

 ソファに座り、隣を男性の護衛二人に陣取られた彼女の向かいに居るのは、私とアイリス姉様、そしてマイケルだ。


 会話の弾んでいる私とサヴィリアの様子を見たマイケルは、なんとも言い難い表情でため息をついた。


「君がこんなことをしでかすなんて」

「何もしていません」

「えっ?」

「何もしてません。知らないわ。私じゃありません」

「そ、そうか……」

「私はちょっと……そう、散歩をしていたら、その女の人に攫われてここに居たんです。何も知りません」

「サヴィちゃま……?」

「悲しそうに私を見ないでよぉ!!」


 私が悲哀を込めた瞳で彼女を見つめると、サヴィリアは悲鳴のような声を上げた。

 うなだれた私に、マイケルが質問してくる。


「それで、ええと。ヴィオレッタの目線では、何が起こったのかな」

「マイクの暗殺者を捕まえました」

「違います!!!!」

「そ、そうか……」

「だから、ご褒美にモーリス殿下に求婚を」

「それは却下だ」

「マイク……」

「そんな顔をしない! しなだれかかってこな――い、いや! それはいい! いくらでもしなだれかかるといい!」

「マイケル殿下……?」

「ゴホッ、ゴホン。それで君は、何を理由に彼女を暗殺者だと思ったんだい?」


 アイリス姉さまのうろんな視線を受けたマイケルは、咳ばらいをしながら、質問を続けた。

 やはりこの二人はそういう関係なのだろう。

 では、しっかりモーリス殿下に求婚しなければ。

 そう心に誓いながら、私はこの目で見た真実をマイケルに伝える。


「私はこのご令嬢を、マイクの寝室で発見しました」

「そうか。いや、ええと……なんで僕の寝室……?」

「マイクの寝室の机の上に、彼女は仁王立ちしていました」

「そうかそうか。いや!? に、仁王立ち? 机の上で!?」

「彼女は私の魔法画(マギグラフィー)を踏みつけにしながら、ワラ人形を殴っていました」


 呆気にとられた様子のマイケルとアイリス姉さまに、サヴィリアは顔を真っ赤にして震えている。

 何か誤解が生まれているような気がしなくもないが、とりあえず話を進めるに越したことはないだろう。


「そ、そのワラ人形というのは」

「呪いの魔法がかかったワラ人形でした」

「呪いのワラ人形」

「金色の髪の毛が触媒として埋め込まれていました。おそらくマイケルの髪の毛ではないかと」

「……つまりそのワラ人形が、命を奪う呪いを籠められたものであったと」

「違います! 私、そんな怖いもの、持っていません!!!」


 ギョッと目を剥いたサヴィリアが立ち上がろうとしたので、両脇の護衛に緊張が走る。

 そんな中、マイケルは困惑した表情で私を見た。


「本人はこう言っているんだけれども、どうなんだろうか」

「確かに、呪いが直接命を奪うものではありませんでしたね」

「その心は?」

「マイクの毛根を根絶させる呪いでした」

「暗殺者だな」


 暗い顔でそう断言した王太子に、反論できる人が居るだろうか。いや、居ない。

 その場に居る限られた護衛達も、緊張は解いたものの、なんだか痛ましいものを見る目で王太子の髪の毛を見ている。さもありなん。


「それで、ヴィオレッタはその呪いを防いでくれたんだな」

「いいえ。呪いの途中で止めたので、完全には」

「……サスペニア侯爵令嬢?」

「あー、その。ええと……」

「サスペニア侯爵令嬢」

「あの。対象は髪の毛じゃないので、大丈夫じゃないですか?」


 つまりどこの毛だ。


 人の毛を滅ぼしておいて適当なことを言うサヴィリアに、マイケルはこれ以上聞きたくないと思ったのか、苦悶の表情で頭を抱える。

 その場に居る限られた護衛達も、痛ましいものを見る目で、マイケルの下半身を見ている。


 一方、アイリス姉さまだけが、不思議そうに首をかしげていた。


「髪の毛じゃないのですね。腕とかなら、まあ……」

「アイリス姉さま。好きです」

「急にどうしたのよ」


 私がアイリス姉さまにしなだれかかると、姉さまは不思議そうに目を瞬いていた。

 アイリス姉さまは純粋可愛いのだ。

 隣で深刻な顔をしているマイケルとは大違いである。


 ちなみに、あのワラ人形は私もよく使用しているものだ。

 初心者魔女セットに入っている入門グッズである。

 恨み言を言いながらひと殴りすると、相手の毛根が一本分根絶されるという呪いの品だ。呪いの効力が弱い分、毎日の蓄積が大切な一品なのである。

 サヴィリアがいつからあのワラ人形殴りを行っていたのかは知らないけれども、細腕のサヴィリアではその殴り数は百にも及んでいないだろうし、大きな効果は発揮しないだろう。


 けれども、それを言うとご褒美が減ってしまいそうなので、とりあえず黙っておくことにする。


 しかし、犯人の侯爵令嬢も被害者の王太子も黙りこくってしまった。

 この場をどう収めたらいいのだろうか。

 やはり、対象をどこの部位の毛にしたのか、追及したほうがいいのかしら。


 そう思案する中、凍った空気に話題を投下したのは、アイリス姉さまである。


「それで、ヴィヴィ(十八歳)からモーリス殿下(十三歳)に求婚ってどういうことなの?」



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