リンゴをカジって異世界転移~継母殿、姫はあちらでパリピになりましたが~
☆
昔々あるところに。
王さまと美しいお妃さまと、雪のように白い肌をした美しい娘がおりました。
娘が生まれてすぐにお妃さまが亡くなり、王さまは失意の闇に落ちました。
生まれたての少女は、周囲の決めた次のお妃さま、継母に育てられるコトになり、しばらくはさみしい日々でした。
「……まだ幼いというのに、この子はあの憎々しい母親似だ。継母よりも、美しく成長しそうじゃァねーか?」
奇妙なポーズをキメ、高慢な継母はイチャモンを付け育児放棄し、彼女を塔に閉じ込めつつ、美しい姫を憎むようになりました。
「鏡よ鏡ィ、この国で一番美しいィ女は、誰だァい?」
『それは現王妃、あなたです』
「パーセンテージまで精確に言い直しなァ?」
『うわメンドクセ……』
「何か言ったかァい!?」
『いえいえ何も』
毎日毎日、魔法の鏡に問いかけます。
もちろん奇妙なポーズも欠かしません。
セルフケアに留まらず、国中から美の権威を集めての研鑽で、継母は確かな美しさを手に入れていました。
その結果を確認し承認欲求を満たすため、鏡への問いかけは続きました。
鏡としてはうんざりでした。
ある日のこと。
いつものように継母は問いかけます。
「この国で一番美しい女は、だあれだァん?」
魔法の鏡は答えます。
『それは七歳の誕生日を迎えた姫です』
「なん…… だと……」
額に手をかざすポーズをキメていた継母が、ぐらりと揺れました。
その答えは望んでいなかったからです。
「そんなコトがッ、許される、ワケがないィ……!」
怒った継母は、姫にまたイチャモンを付け今度は国から追放しました。
今回ばかりは怒り心頭らしく、『追放に見せかけての殺害』です。
ある狩人にソレを命じたのですが、実はロリコンな彼は姫を誘拐しようとしました…… その運命を憐れんでかも知れませんが、俯瞰していた魔法の鏡はゲンナリし、ひとつ魔法をかけました。
それは『不幸の魔法』。
そして、業深い狩人は雷に撃たれ息絶えました。
だがそれによって、ひとり置き去りとなった姫。
森をさまよい、やがて炭焼き小屋を見つけます。
疲れていたため、仮眠用のものかベッドを見つけ、そのまま眠ってしまいました。
一方、継母は激怒します。
いつもの魔法の鏡への問いかけに、また姫の名前が出たからです。
「ひぃいめぇええぇ!? なぜ生きてるゥ?」
床に後頭部がつくほどに仰け反った継母は、もう人任せにはできないと執念の毒殺計画を一瞬で練り上げました。
『変化の魔法はお肌に深刻なダメージが残ります(残り98回)』
「……じゃあ変装だけにしておくわ」
そして継母は炭焼き小屋へと、毒リンゴを携えて出かけました…… 姫がかじりつくのを見届けるつもりで。
時は少し戻ります。
姫のこと誘拐しようとしていた狩人は、不幸の魔法で命を落としました。
そこにひとり分の『幸運』を残し。
ロリコン(正確にはアリスコンプレックス)であるコト以外は真っ当に生きていた狩人だからか、あるいは隠しきっていたのがこその幸運か、並々ならぬモノでした。
しかし本人は既にない。
となると、その幸運とはどこに向かうのか?
数値化されないソレは、その場に居た人へと渡り巡る。
直接命に関わるような魔法が使えない鏡の、最大の攻撃でもありました。
つまり姫には、元々の『薄幸の美少女』のわずかな運と『狩人』のひとり分の幸運が宿っています。
鏡は、炭焼き小屋の『水瓶』の水面に渡って、目覚めた姫に呼び掛けます。
『姫…… わたしは以前のお妃さま、あなたの母君が所有していた魔法の鏡です。いまは継母に使われておりますが…… こんな場所に姫さまが追い詰められているのも継母のせいなのです』
「そんな……」
そして鏡は、継母はいまだ姫の美しさを羨み、憎み、命を奪おうとすると伝えました。
『あなたを殺害せんと手勢を、いや、自らそちらに向かうやも知れません…… どうか、逃げてください。今のあなたなら、隣国まででもたどり着けるハズです。どうかその身を大切に。お妃さまが残された姫を、失いたくはないのです』
「でも、それでは」
姫は、小さな瞳に涙を溢れさせ、水面の鏡に告げました。
「おとうさまと、あなた…… カガミさんとまではなれてしまうわ」
鏡は気づきました。
大人にとっては日常であろうと、こどもにとっての世界はとてつもなく厳しい、と。
そして、姫と離れるのが苦痛であるのは自分も同じである、と。
いまだに失意の沼に入り浸る王は正直、どうでもいいのだが…… と鏡の裏側でこぼします。
『味方となる者が見つかるまではわたしが姫を守らねば。気高く美しいお妃さまの姿に感銘を受け、攻撃魔法を捨てたわたしですが、姫』
「は、はいっ」
『旅の供となるコトをお許し願えますか?』
頼もしき小人たちも、死体愛好家な王子さまもここには存在しない。
魔法の鏡は『違う世界』のいままでを何度も見てきた。
ならば今回手助けするのは自分の役目じゃね? と思い立ったのだ…… 頼るべき相手はここには居ないのだ、別の世界への移動も検討しなくてはと水面を揺らした。
「もちろんっ、うれしいです! カガミさんがごいっしょしてくれるなら、おかあさまのおはなしもきけますよね?」
こうして…… ニセモノの鏡を残して姫の元に潜んだ『魔法の鏡』は、怒りの化身、悪意の象徴となった継母から姫を守る『イージスの盾』のようになろうと決めました。
そして、冷たい泉のほとり、リンゴをかじった姫は溺れたと見せかけ…… はるかな世界へと転移を果たしたのです。
「私の名前は鏡 真白ッ! 利己的犯罪は許しませんッ!」
『姫様、今月でもう六回目ですよ、犯罪者駆除など止めましょう……』
「いいえ、羨み妬むのがヒトの常でも、それは自分に打ち返されるのです。因果応報は確実に、望まぬカタチで降り注ぐ…… 私はそれらこそ防ぎたいのです!」
『コレはコレでメンドクセぇな……』
「いきますよ、カガミン!」
『せめてその呼び名やめて』
白雪に例えられた白肌はいつしか日に焼けて、内向的だった性格は活発になり、明るい友だちに恵まれ、だが正義感あふれるその行動で彼女の呼び名が『リアル魔法少女』となったとさ。
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原典『白雪姫』の教訓
一番のテーマである『因果応報』が、美しさに執着し、白雪姫を嫉む継母に降り注ぎます。
執着心のままに謀殺しようとすればするほど継母にはしっぺ返しがありますが、そこは結構バリエーション豊富なので見所なのかも。
(発狂したり、叩き割った鏡の破片が刺さったり)
グリム童話の看板作品『白雪姫』は、嫉妬や執着によって短絡的な行動をすると自分に災いとして返ってくるという教訓が含まれています。
決して死体愛好家(理解不能)な王子様と結ばれるのが幸せなのだという意味はありませんとも。