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川中島決戦 名もなき英雄たち  作者: 山脇 和夫
13/16

危機一髪

権助は銃口を新兵衛らに向けていたため越後の足軽らにだいぶ距離を詰められてしまった。

新たな鉄砲を受け取ると、突っ込んでくる足軽に向かって撃ち放った。

胸に銃弾を喰らった足軽がのけ反りながら崩れ落ちる。

しかしその背後から槍を突き立てた武者が突進してきた。一人二人、いや後ろにもう一人…

権助は慌てた。

「早う鉄砲を渡してくれぃ!」

足軽に隠れて見えなかった為に不意をつかれた。

わぁっとばかり小姓がまたも腰を抜かす。

「早う早う!」

今さっき鉄砲を放ったばかりである。

新たな鉄砲を手渡してもらわなければ権助には防ぎようが無い。

すでに十歩も離れていなかった。

「ここは儂が引き受けた!権助は謙信公を討ち取るのじゃ!」

土屋昌次がダッと立ち上がると槍を構えて飛び出した。

昌次も鉄砲大将として鉄砲組を引き受けているが槍にかけても歴戦の勇士である。

ヤーと掛け声を挙げて突進して来る越後武者…

顔を見ればまだ若い、これが初陣ではという若武者だった。

槍先を見切った昌次はわずかに身体をしならせると気線を外し自らの槍を若武者の腹に突き立てた。

槍先は真新しい胴丸を突き抜けて背中まで達した。

ううっと言う嗚咽を残してドサリと前のめり崩れ落ちた。

まだ年端もいかぬ若者で不憫であるが、これが命をかけた戦さ場というものである。

間をおかず二人目が突入して来る。

昌次も深く食いこんだ槍を抜いているいとまはない…

あっさり槍を捨て抜刀した。

二人目の越後武者もまだ若い。

甚八の仇と叫びながら突っ込んできた。昌次は槍先をかわすと若武者に体当たりした。

そしてぐらっと体制を崩したところを兜脇から激しく切りつけた。

兜のシコロが吹き飛び、鍬形が折れた。

しかし刃先が首を切るには至らなかったが、脳震盪を起こしたようでドサリとその場にうっ伏した。


「その旗指物、さては土屋昌次殿とお見受けした!我は謙信公近侍衆一番頭 上田鹿之介と申すもの、相手に不足なし尋常に勝負じゃ!」

立派な躰具と堂々とした成りは相当の手練れと見えた。

昌次もここで怯んでいるわけにはいかない。

ここを突破されれば親方様のいる本陣は目と鼻の先である。

何がなんでも守り通さなければならない。

昌次が刀と見て鹿之介も槍を捨て抜刀して来た。

いざ勝負!とばかりにお互い斬りつけあった。

刀が交差し激しく火花が散る。

二刀目三刀目と激しく斬り合いぶつかり合う。

お互いの身体が絡み合った。

「金吾!今のうちじゃ、鉄砲手を斬れ!」

先程打ち倒したはずの武者がよろよろと立ち上がって来るのが見えた。

脳震盪を起こしながらも戦さ場の気概が安息を許さなかった。

動きは鈍いものの槍を手にすると徐々に覚醒していくのを感じる。

しまった!と思った昌次は「権助!一人撃ち漏らした!頼むぞ!」と声を張り上げた。

「お主の相手はこの儂じゃ、存分に料理してくれようぞ!」鹿之介がさらに力を込めて攻勢に出てくる。

昌次は必死に受け止めていた。


権助は焦った…

弾を詰めるはずの小姓はすっかり怯え切って手元がブルブル震えて手間取っている。

「はよ、してくれずら!」叫ぶ権助…

正気を取り戻した越後武者が権助を見定めて槍を構えた。

やー!と掛声を上げて突っ込んでくる。

「早よ早よ、鉄砲を投げれ!!!」

小姓が投げた鉄砲を受け取るのと越後武者が槍を突き立てるのがほぼ同時だった。

槍がぐさりとめり込んだ…




槍先は権助の肩をわずかに逸れ地面に突き刺さっていた…

脳震盪を起こしたのが祟ったのか僅かに標的を外してしまったのかも知れない。

槍を地面に突き立てたまま権助に覆い被さっていた。

しかし正確には権助の上で宙に留まっていたと言った方が正確かも知れない。

金吾は次のひと槍で!と体制を立て直そうとしたが、ハタと自分の身体が何かにつっかえ棒になっているのに気付いた。

「危なかっただぁ…」

金吾は下にいる権助と目があった。

つっかえ棒は権助が手に持った鉄砲であった。

金吾の顔が歪んだ…

ズドン…!

鉄砲が火を噴き金吾の身体が宙にまった。


権助は槍を突き立てられると同時に鉄砲を構えたが…

幸い槍が権助を差し逃してくれたのが幸いだった。

さもなければ、身体を串刺しにされていたところだ。

越後武者と顔があったがあまりの若武者に一瞬の躊躇があった…がしかし、この戦場で幾多の命を奪ったことか…権助は自らが鬼だと思った。

今またこの鬼を討ち取ろうと槍を突き立てたものがある…

儂は鬼じゃ!でも鬼も命のために戦うんじゃ!

権助は若武者を睨みつけると気持ちが落ち着いた。

若武者は胸に押し当てられた銃口を見て愕然と権助と目を合わせた…最後を悟った目ではあったが命乞いをするような目を向けてきた。しかし権助は心静かに引き金を引いたのだ。

金吾の身体が宙に浮き、人形のように手足を伸ばしたままドサリと落ちた。


「しくじったか!」金吾が銃口に斃れるのを見て鹿之介は叫んだ。

良くやったと昌次は息を吹き返した。

権助も体制を立て直すと小姓らに「次!、鉄砲を寄越せや!」と催促した…権助の顔が

鬼神の如く変わった。

 

権助らが越後の足軽衆に手間取っている間に謙信本陣は最後の突撃体制を整えていた。

信玄側も近侍衆が槍襖を引いて待ち構えていたが、騎馬集団の突撃にどれだけ耐えられることか…

しかし騎馬の集団が突撃隊形を作ってくれたおかげで、あれだけ謙信の周りを囲んでいた人の群れが薄くなっていた。

白い陣羽織に一際異彩を放つ毘沙門天の兜…

間違いなく謙信である。

自軍の態勢が整ったのを確認すると手を高々と振り上げた。

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