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第七話 ''あなたのために''


ステージにトールが所属するアイドルグループ

『トライフル』のメンバーが入ってくると

はちきれんばかりの歓声があがった。


「ラナちゃあああん!!!」


「イスズちゃん!!!!」


「トールちゃああん!!!!」


自分たちそれぞれの推しの名前を呼んでいて、その中には勿論、トールの名前もあった。


(トール…。すごい人気だ…。すげえな。)


俺は会場の熱気と、トールの人気の凄さに驚かされた。

俺たち3人はトールの計らいにより最前列の席に居たため、トライフルのメンバー達の姿がよく見える。


1人1人がすごいぐらいかわいいな…。

この子達が人気アイドルなのも頷ける程の美少女達だ。

だが、特にトールは普段の泣き虫な姿からは想像できないほどのオーラが放たれている。

これがカリスマというやつか…。


「すごいですね。」


俺の横でふと声がしたので隣を見てみる。

するとそこにいたのはエイだった。


「エイ!温泉の時はいたらしかったけど、来てくれたのか…?」


「アイドルというものに興味がありましたしね。温泉同様です。…あとそれと…。」


エイがチラリとこちらをみると言葉が言い淀んだ。


「?」


「あなたに先日、失礼な事を言ったのを謝罪したかったんです。そちらの事情を汲めず申し訳ございませんでした…。」


俺は急にエイに謝られたので少しきょとんとしてしまっていたかもしれない。


「エイ、ルルに何か聞いたのかもしんないけどさ、悪いのはまだ未熟な俺だよ。だからさ、謝りたいのはこっちなんだ。」


「…ふふっ。じゃあそう言う事にしておきましょう。あなたはお人好しですね。」


エイがふふっと笑った。


「あ!今笑ったろ!やっぱりエイは笑った方がかわいいよ。」


「かっ…かわっ…。何を言ってるのです…。

ほ、ほらトールさん、すごいですよ。」


慌てて俺から視線を外すエイの顔は少しだけ赤らんでいる気がした。


「ああ!トールはすごいんだ!」


俺はまるで自分の事かのようにトールの姿を褒めた。本当に誇らしいんだ。

エイは俺を見て微笑んだ。



俺が漫画で描いていたトールもアイドルだった。

だけど今とは少しだけ状況が違う。


こっちの異界に突然やってきて、知らない人、知らない場所に囲まれて…。

きっと怖かったはずだ…。トールは泣き虫だが俺だったらもしかすると生きていれなかったかもしれない。


だが今やトールはこの会場にいる数千、数万を超える人々の心を虜にしている。そう、この会場は完全にトールのものとなっていた。


間違いない…。トールはこっちに来て成長したんだ。

作者である俺の知らないところで、そして自分の力で…。



「俺とは大違いだな…。」


と1言呟いた。

会場の熱気にかき消されたが、俺の心で反響し何度も繰り返されるのは容易い事だった。


トールは自分の力でこの世界を生き抜き、成長した。

だけど俺はもし、もしルルがいなかったら…。

果たして今の自分があるだろうか……。


「マスター!!!!」


突然、ライブ会場に声が響いた。

俺はハッとしていつの間にか俯いていた顔を上げ、ステージを見る。


ファンやメンバー達は「?」といった様子だが、トールだけは俺の方を見ていた。


「マスター…!ボクはね!!マスターのおかげで今ここに立ってるんだよ!!

マスターがボクに生きる力をくれた、弱虫なボクがアイドルになれる力を…!」


観客達は全く理解できていいなかったが新しいシチュエーションボイスなのか!と判断したらしく、トールの声に声をあげた。


「ボクだけじゃない、いろんな人がマスターに助けられてる。だからね次はボク達がお返しする番。そして今はボクが…とびっきりのステージを魅せてあげる!!」


トールの声に合わせて曲が流れ始める。

会場は最高潮。とんでもない熱気に包まれている。


「良かったね!マスター!」


ルルが俺の耳元で呟いた。

アスカでさえも微笑んでいる。

珍しい…なんて言ったら怒るか…。

それもそのはず、俺の顔は涙で覆われていたのだ。

俺なんかが本当にルルやトール達を助けられているだろうか…。

エイのように俺のせいで孤独にさせてしまったこともある。


だけど…。トールの曲を聞いているとなんだか、自分は胸を張って良いんだ、俺はすごいんだっていう気持ちが湧いてくる。


そう、それはまるであの時のルルの言葉のようだ…。


「今だけ、今だけは全部忘れても良いよな……?」


今日行われたトールのライブは…。

俺の心に深く刻まれる、大切なものとなった。

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