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始動

【1】


 ジャネットは、オメガセキュリティという民間企業に居た。セイバー社の関連企業だ。誇らしくて高校の友人に自慢した。


 二週間続いた軍事訓練は無事終わり、補助システムのUIの日常使用にかかわる業務に移行した。


 戦場で使うUIを日常でも利用できれば様々な点で利便性がある。しかし、弊害もあるのではないか、ということで行われるのが今回の業務だ。


 軍事訓練で隅々まで覚えたUIの使用法を用い、軍事行動とは関係のないシステム開発の仕事に携わることとなった。Analysisの学習支援機能を使い、プログラミングやITの勉強は済ませていたので仕事はスムーズに覚えられた。


 正直、ここへの斡旋がなければ、今回の任務など絶対に受けなかった。


 ジャネットは、軍事訓練のことは頭から飛ばす。


 オメガセキュリティの仕事場と、生活する寮と建物は別だが、敷地内にあるので、それがとても良かった。何よりカウンセリングがあるのが良かった。


 ふと脳裏に数日前にTwitterで呼んだ論文が思い出される。心的外傷後ストレス障害の人が恐怖体験を感じた場所に行くとどうなるか、と言う内容で衝撃的だった。論文を読んだ後、動悸が止まらなくなった。


 嫌なことを思い出してまったが、もう大丈夫だ。


 このまま何もないと良いな、と思った。



【2】


 位置情報が途絶えてから二週間経った頃から、ジャネットがインターネットを使用する時間が増えた。そのためD班は追跡システムを利用し、その現在位置を特定した。何回かの確認作業が行われた後、オメガセキュリティと言うIT企業であると確証が取れた。


「イースターエッグ見つけた気分ですよ。退屈な待機も終わりですね」マーブは獰猛な笑みを見せながら体をほぐすように腕を伸ばしたり、縮めたりしている。


「オメガセキュリティ、知っているか?」ダリウスが訊く。


 マーブはサイトをいくつか巡り、「外部協力者の一人がここで働いています。ただ、ジャネットとはイメージが違いますね」


「というと?」


「ここはセキュリティシステムが主な商品ですから。ジャネットは歩兵ですよね、オブザーバーとして呼ばれるにも経験が少ないし」


「新しい事業の開拓、という名目かもしれないな」


 超小型飛行機(MVA)で建物の上空から監視を続けること一日、ジャネット本人がいることを確認。すぐに訓練所に施設の再建設を依頼する。


 オメガセキュリティは道路に面した立地にあり、建物は横長の平たい形をしていた。道路に面しているとは言え、近くに幹線道路があるため交通量は非常に少なかった。周りも中小企業がぽつぽつとあるだけでショッピングモールやコンビニも近くにないため、閑散としていた。


 オメガセキュリティは、社員寮(ジャネットはここに泊っている)も含め、三棟に建物が分かれている。すべての建物の入出で厳重なMAVとHI―MEMSへの対策が行われ、かつ電磁防壁が張り巡らされていた。つまり、MAVやHI―MEMSの侵入は難しく、また虫の卵などを偽装し、入れて、孵化させた虫を中から出すのも難しいということだ。そして、ハッキングや、MAVからの情報発信も建物内からはできない。


 今まで考えていた作戦が使えなくなったかもしれないと思うと、大きな溜息が出る。


 建物は柵で覆われ、三つの建物の間には、渡り廊下はない。舗装された道と、申し分程度の芝生。そこを5人程度の警備員が巡回している。


 マーブは撮影された映像を見て、「柵は乗り越えられそうですが、一部を爆破した方が良いでしょうね」


「柵の材質を調べ、訓練施設に同じ柵を用意して自爆ドローンによる爆破訓練を行う必要があるな」


「路肩に車が停まることはかなり少ないみたいですね」


 ダリウスはマーブが言いたいことを悟り、ため息をつく。襲撃チームの車を近くに止めておくと確実に怪しまれるという訳だ。


「柵を爆破し、そのまま車を建物近くに止めないと」


 ダリウスは腕を組み、唸る。柵をドローンで爆破し、車で襲撃チームを送り込むというのはかなりタイトだった。


「しかも、こいつら堅気には見えんですね」マーブが、警備員を指さす。少し太っており、銃もカスタマイズされている。


「高性能なガワを装着している可能性があるな」


 ダリウスは、精密射撃に特化した拳銃を見て、思う。ガワは身分を明かさないだけでなく、調整によっては戦闘時に身体を補助するようにもできる。通常であれば、あまりに個人向けに過度にカスタマイズされた銃はそれ自体が個人情報になりかねないため、特殊部隊ではあまり好まれない。しかし、ガワを装着した状態の身体に合うように調整された銃ならば、ガワさえ脱げば個人とのつながりは一切なくなる。


「勝ち目、あるんでしょうか」ロバートが呟く。


「まぁ良い、極論、勝てなくてもいいんだ」ダリウスがため息交じりに言う。


 マーブがぎょっとした顔をする。


「今回の拉致作戦が失敗しても、次がある。つまり、俺たちが必ず行わなきゃならないのは、負けないことだ」


「負けないこと、ですか?」


 ダリウスはゆっくりと頷く。


「ボスらしい」マーブが微笑む。


「マーブは外部協力者に連絡、ロバートはこの建物を分析しろ。俺は爆破訓練の準備を進める」


「建物の設計図はどうします?」マーブが訊く。


「多分、手に入らないだろう」


 3人は行動を始めた。

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