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 小さな虫が壁に貼りついていた。脚には毛が生え、複眼がてらてらと脂ぎって輝いている。その視線が『俺』を見る。視線はやがて銃を持つ男たちへ移り―


「うわっ」


 暗闇の中で、誰が叫んでいるのか分からなかった。しかし、ふと自分であると気が付く。


 ダリウスは警棒を手にし、部屋の中を見回していた。荒い息が部屋に響いている。


 またこの夢か。汗をぬぐいながら、歯をかみ締めた。


 ダリウスは警棒をしまい、汚い物を振り払うかのように、腕を撫でる。虫に擬態したMAVが付いていないか確認するためだ。


 夢が異様な現実感をもって脳裏にこびりついていた。まだそこにいるかのような嫌な感触。


 ダリウスはライトを手に取り、部屋を照らしていく。そうやって虫の影をしらみつぶしに確認していく。毛布を乱暴に振り、何もついていないか確認する。


 ―国防総省の手先は今も迫っているかもしれない。


 ダリウスは浮かんだ言葉を頭から振り払う。大きくため息をつき、ベッドに戻る。


 疑いは決して消えない。アパートに住んでいる住民全員を監視しても、アパートに繋がる道で不審な人物や車がないか監視しても、アパートの外壁に常時MAVを貼りつかせても。


 ふとMAVで監視している女性の顔が思い浮かぶ。


 ダリウスは彼女の乳房の形も、乳首の色も、好きなセックスの体位も、Googleで「ぬいぐるみとセックスする方法」を何回調べたかも、鏡を一日何時間見ているかも全部知っている。


 時計を見ると朝の4時だったので起きて仕事をすることにした。


 空腹ではなかったがシリアルを用意し、機械的に食べ始める。気が付くと手に持ったスプーンでシリアルをかき混ぜていた。どこかに虫が潜んでいるような気がしたのだ。


「何やってるんだか」一人呟き、自嘲的に笑ってみる。しかし、スプーンはまだシリアルをかき混ぜ、虫の影を探し続けていた。


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