分析
部屋は空調がきいており、過ごしやすかった。ジャネットは自分の机に座り、伸びをした。
ここはセイバー社の訓練施設の一室であり、戦闘分析を行うための部屋である。机が何台か並び、実務性と高級感を兼ね備えている。
「やぁジャネット、眠れたか?」派手な髪色をしたアジア人の男性が話しかけてくる。
「ええ、まぁまぁね」ジャネットは少し照れながら言った。
ジャネットは周りを見渡す。様々な人種、年齢の者たちがパソコンとにらめっこしている。全員、従軍経験がある者たちだったが、銃を捨て、軍服を脱げば、統一感のない人々の集まりになってしまう。その感じが妙におかしくて、ジャネットは好きだった。
パソコンの電源を入れ、ブルーライトカットの眼鏡をかける。ジャネットは、少しだけ、ここにきて良かったと思った。
戦闘の分析、これもUIの調整で重要になるという。
指定されたファイルを開くと、兵士のヘルメットに装着されているカメラから撮影された映像が現れる。隣のディスプレイには、ドローンが撮影した映像。
ジャネットは、それを見始め、兵士の行動が正しいかを判断する。これらの映像は今回の訓練で得られた物と実際の戦闘の記録映像が混ぜられているが判別する事が出来なかった。
先ほどのアジア人男性と何度か話したが、今回の訓練は戦場の再現度の高さと痛覚へのフィードバックにより、訓練中は実際の戦場に送られているに等しい。
『訓練内容が昔の記憶と変わらないせいか、それとも心的外傷後ストレス障害のせいか分からないけど、訓練中は本当に戦場に居る感じがするんだ。訓練中はこれが訓練であることを忘れることもある。UIの表示が正しく行われるかの確認をする為なんだろうけど、細かい指示の下で似たり寄ったりの様々な状況を体験させられるんだ。正直、うんざりしたよ。なんだか軍に居た時のことを思い出した』男性はため息をつきながら言っていた。
ジャネットは、思考を断ち切り、映像を見始める。
UIの補助により、攻撃する順番などはある程度は頭に入っているが、やはり人間だからだろう、ズレがある。そのズレの原因などを分析するのが、ジャネットの仕事だ。
照準に一人の黒人が入る。UIの表示では脅威が低いため、優先するべきではない。しかし、兵士は撃った。
ピンクの霧の中で黒人は倒れ、動かなくなった。
ジャネットは動画を止め、少しうんざりとしながらメモを取る。
攻撃の順番は適切と思われ……
メモを取る手が止まる。
ふと思う。この映像はどこかで見たことがある気がする。いや、この映像は過去にも見たことがある。
ジャネットは動揺を隠すため口に手を当てた。
攻撃の順番は適切と思われ……
自分の書いたメモが目に入る。
以前、分析した時はどうだっただろうかと考える。
攻撃の順番は不適切であり、優先順位を―
過去に書いたメモの記憶が蘇り、ジャネットは微かな悲鳴を上げる。
「ジャネット、大丈夫か?」アジア人の男性が心配そうに顔をこちらに向けた。
「ええ、大丈夫」ジャネットは言いながら、映像を再生する。
確かに以前、不適切行動が含まれると判断した映像だ。なぜ、私はこの映像を見て、適切だと判断したのだろう。
そういえば、以前も似たような映像を見せるな、と思うことがあった。
まさか―
ジャネットの脳裏に次々と疑念が浮かび上がる。
過去に不適切であると判断した映像に何かしらの細工を加え、適切であると判断さえようとしている? でも、どうやって? 理由は?
もし、ジャネットの思う通りに不適切な行動への判断を翻しているならば。
これが実際の戦争だとしたら。
ジャネットは拳を強く握り締め、震えを止めようとする。
私は何人もの殺される人を見てきた。それらへの評価がすべて捻じ曲げられてしまっているとしたら。この分析業務こそ、本当の目的なのだとしたら。
ジャネットは断りを入れ、トイレに向かい、そこで嘔吐した。
何か自分には理解できないことがゆっくりと進行している、ジャネットは感じ、思考と共に吐瀉物を流した。




