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作戦立案

【1】


 朝、7時20分、ダリウスたちは車である場所に向かっていた。朝早いせいか、幹線道路の車はまばらだ。


 周りは、SUVの中に傭兵が居て、辺りを警戒しているとは思わないだろう。


 MAVの洗浄(完全に監視を撒くこと)がこの旅の目的だ。


 今までは外部協力者を使って情報収集をしていた。しかし、マーブと情報交換をした傭兵は生身でないと会わないと言ったため、生身で会合を行った。MAVによる追跡も考えられたため、洗浄を行う為にある民間軍事企業に向かう。あらかじめ決められていたことは言え、メンバーの顔は暗い。


 ダリウスは常時、助手席後部のモニターを見ている。そこには周囲の運転手の生体データが表示されている。攻撃の意思や危険な動向があればAIが瞬時に感知する。マーブはというと、上空のMAVが撮影している映像から奇妙な動きがないか見ている。


「次の隠れ家の方が冷房の効きが良いらしいな」ロバートが言う。


「前は断熱材がクソだったからな」マーブがそれに追随する。


「交通の便も次の方が良い、ですよね。ボス」ロバートが明るい声で言う。


「ああ、そうとも」ダリウスは、頷きながら、二人の顔を見る。二人とも表情は暗かった。


 毎日冷凍食品を食べ、酒もろくに飲めず、外出もできず、親友や家族とも会えず、安心して眠れない生活。それを始めて二ヵ月になる。


 いつまで続くのだろう。皆がそう思っているのが分かる。しかし、答えられないまま生活は続いていく。


 ダリウスは答えから逃げるように〈オルタナ計画〉について考えていた。


 JMの残した「軍事訓練、分析が……殺人!……、人種・年齢・性別、国防高等研究計画局!」というメモ。


 普通に考えれば軍事訓練はそのままの意味だろう。人種・年齢・性別は、それらが様々な者たちが〈オルタナ計画〉に参加しているのではないかと考えていた。分からないのは、分析が……と、殺人、だった。


 マーブや他のメンバーと話して、「殺人!」は〈オルタナ計画〉の脱走者が殺されたことではないか、という案が出ていた。ダリウスもそうだろうと考えていた。


 しかし「分析が……」だけは全く意味が分からなかった。システム運用時に何かを分析するのだろうかとも考えられたが、それは特筆する事項ではない。


 何をしていても〈オルタナ計画〉から逃れられないのか。ダリウスはため息をつき、ふと隣の車を見る。車の中に三十歳くらいのスーツを着た男。欠伸をした顔には昨日の疲れが残っている。


 妻子の物だろうか、ぬいぐるみが助手席に投げてある。


 もしかしたら、俺もこんな風に―そんな思いが頭によぎり、問いが再び胸に突き刺さる。


 いつまで続けるつもりだ?



【2】



 ダリウスは課長補佐室に居た。今までの調査の内容を報告する。


 課長補佐は資料を見つめ、「なるほど、セイバー社か、これは確かに臭いな」


「どうします?」


「続行だ。何が行われているか真実を明かせ」


「〈オルタナ計画〉がまだ続いているという証拠はあるんですか?」


「内部告発者によれば、まだ行われているようだ。JMが居た時と変わらず、実弾を利用した軍事訓練も行われているらしい。勿論、数日前に得た情報だ」


「国防総省の天下り組のアナリシス社幹部はどう抑えるんです?」


「偽装した作戦計画書を提出する。それに、彼らの様子は別の班に監視させているが、怪しいところは全くない」


「今回のことは国防総省から知らされていないと?」


「かもしれん。幹部に余計な動きをされたくないのだろう」


 ダリウスは課長補佐を睨み、「例の派閥抗争が〈オルタナ計画〉と関わっていないと良いですが」


「分からん」課長補佐はダリウスの視線を受け流す。


 ダリウスは息を吸い、拳を握り、


「ケンブリッジ・アナリティカ事件を思い出しませんか?」


 課長補佐の視線が一瞬、揺れる。


 C・A事件とは、2016年にアメリカで起きた大規模なプライバシー侵害事件である。選挙コンサルティングを行うC・A社がフェイスブック上で収集した個人の心理的特性のデータを利用し選挙結果に影響を与えた、とされている。


「今、明かされている〈オルタナ計画〉の内容は顧客のデータの不正利用、記憶の改ざん……これだけでも公表されれば大スキャンダルになる。これが派閥抗争に関係ないと?」


「分からん」課長補佐はダリウスを睨み、「それで、どうやって〈オルタナ計画〉の情報を得るつもりだ?」


 この話は終わりだ、そう瞳が言っていた。


 ダリウスは息を吐き、「ジャネットを利用し、彼女の記憶の改ざんを行っている担当者を捕捉。拘束した上で尋問し、真実を明かすのが良いかと」


 記憶の改ざんが行われているとすれば、改ざんを行っている人物自身は〈オルタナ計画〉の詳細を知っている可能性が高い。なぜなら、記憶を改ざんするに当たり、記憶を消せているかを確認する作業があるため、その作業を行うためには、どの記憶が消えているかを確認する必要がある、そうすると必然的に〈オルタナ計画〉の内容を知ることとなるためである。


「それで行こう。現在、C班が関係者を洗い、監視体制を整えている。作戦が失敗、もしくは改ざんの担当者から事実が聞き出せなければ次の作戦に移行する」


「分かりました。話は変わるのですが、ハイブリット昆虫微小電気機械システム(HI-MEMS)の使用は許可して頂けますか?」


 HI―MEMSとは、昆虫や微生物に電子機器を埋め込んだり、科学的刺激を用いて操作したりしてMAVとして使用する技術の総称である。


「ああ、それと各種銃器の使用も必要な書類を集めた。ただむやみに使用するな」


 各種銃器の使用、その言葉を聞き、ダリウスは表情を硬くする。


 戦場から生きて帰ったのに、また戦いに行くのか?


 この仕事をし始めた頃から思い続けていた疑問が浮かぶ。


 お前はマーブを殺したいのか? 大切な仲間が死地に行くのを黙ってみているのか?


 マーブは危険を顧みないところがある。だからこそ、生き残った俺が最後の仲間として、生かさないといけないんじゃないのか?


「担当者を拘束する際に武装し襲撃を行う事もあるかもしれん」


 ダリウスは拳を握り、「我々のような年寄りが襲撃に参加して生き残れるとは思いません。相手はおそらく現役の特殊部隊です。ですから……」


 言葉が詰まる。これでは理屈の通らない言い訳ではないか。他の誰かに戦いに行けと言うのか。


「担当者を拘束するチームは別で用意する。しかし、もしもの時はD班が担当者を拘束しなければならなくなるかもしれん」


 ダリウスは微かに視線を下げた。


「マーブやロバートはまだ若い、俺だけで」言いながら先ほどの言葉と矛盾していることに気づく。


 課長補佐は大きくため息をつき、「どうしてもと言うならC班に拘束を命令する。しかし、D班のメンバーを納得させられるのか?」


「それはそうですね」ダリウスは笑い、早口で言った。


本当はマーブを説得できないと思ったからだった。それを悟られたくなかった。あの男はこの仕事を心の底から楽しんでいるし、それが生きがいなのだ。それは俺が一番理解しているし、その気持ちは痛いほどわかる。


 マーブを説得することはできない。ならばどんな手を使ってでも生き残る道を見つけなければ。


「我々の逃亡のフォローは?」


「民間軍事企業内で、MAVの洗浄を行い、そこから隠れ家に逃げてもらう。数か所の隠れ家を用意しておく。またフォロー役とは近々接触させる。逃走ルートや隠れ家などはD班で確認しておいてくれ。それと逃亡時の身分である職業の偽装をしっかりと行っておけ」


「分かりました。もし我々が捕まった時は」


 課長補佐は目を細め、「尋問で得られた内容にもよるが、アナリシス社および黒羊の関与は一切否定することになる。D班の救出も場合によって行われないかもしれない」


「自殺用デバイスの装着は許可して頂けますか?」


「分かった。許可しよう。それと、記録は逐一偽装サーバーに送信しろ。D班が動けなくなった時に必要になる」


「調査の続行はC班が行うと聞きましたが」


「そうだ。余裕のある班員は訓練を行わせつつ、引継ぎの準備を行わせている」


 ダリウスは顎を撫で、口を結ぶ。


 課長補佐も表情から何か察したのか、「業務内容はAIと分析官に分析させ、無駄な部分は削り、戦闘訓練、医療訓練の時間も増やす。これで構わないな」


「それでお願いします」


「また詳しいことは連絡する」


「ありがとうございます」


「なに、これが俺の仕事だよ」課長補佐が苦々しい口調で言った。

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