テストプレイ ①
七月の朝日はせっかちなのか、午前四時にはもうカーテンの隙間から光の矢を打ち込み、人間を起こしにかかる。
「……もう、こんな時間……」
隣で眠っている高橋智明を起こさぬようにしながら、鬼頭優里は体を起こした。
ベッドサイドに掛けていたTシャツと下着を手早く纏い、キッチンへ移動してペットボトルのレモンティーで喉を潤す。
国生警察の黒田と会談してから数日、明里新宮周辺は何かと騒々しく、日毎に高まっていく不穏な雰囲気に優里は寝付けない日々を送っている。
キッチンの窓は小さく、天井際に北北東に向いて設けられているが、諭鶴羽山の影でも朝の光は煌々と差し込んでいる。
「誰も怪我せえへんようにっていうんは、ワガママで欲張りな言い分なんかなぁ……」
智明や自分のことのみならず、新宮の正門と智明が増設した外苑の門周辺には、智明の招聘によって味方となってくれたバイクチームが居て、優里は彼らのことも気にかけた。
智明と優里が力を使えば自衛隊であろうと立ち入らせなくすることは可能だ。しかし相手は武装し訓練に明け暮れる精鋭たちだから、自信と結果は別物だと考えておかなければ、バイクチームの面々も智明も、大なり小なり傷を負いかねない。
――本当に危険な時は、全員を癒やしたり、瞬間移動で逃げてもらったりを考えとかなきゃ……。でもどこに逃げたらええんやろ?――
バイクチーム淡路暴走団と空留橘頭は総勢で百名近い。その全員に癒しを施したり、一度に瞬間移動させるとなると大変な集中力と体力の消耗が予想される。
――私にできるやろか?――
智明が自身の全力を計れていないように、優里もまた自分の能力の限界を知らない。
ベッドルームへと戻ってきた優里は、安定した寝息を立てる智明の隣に寄り添い、なかなか拭えない不安を忘れるため、幼馴染みで初恋の相手である智明の体に、自分の体を重ねていった。
この十日ほどで智明の印象や雰囲気は大きく変わってしまった。
それでも優里の恋心は智明に向いているし、智明から向けられる愛情もしっかりと感じられている。
それでも不安や心配事が消えて無くならないというのは、問題に対して具体的な解決策や対策を取れないだけでなく、優里から智明への信頼の問題なのではと思えてしまう。
まだ十五歳の優里にとっては、それこそ何をすればいいのか分からず、精神的なストレスを身体的な快感で解消することしか思い付かない。
智明に誘われたからとはいえ、家を出て新宮に引きこもっていると、優里が心を許せる相手は智明しか居ないし、仲間になってくれたバイクチームの面々とは物理的な距離もあるし友達になれる関係性もない。彼らは優里よりも大人であるし、ここには目的があって現れたのだ。
年下の小娘の寂しさを紛らわせるために参上したのではないし、すでに智明と優里に対して立場としての上下関係が生まれてもいる。
そうした現実を分かってしまうから、例え智明が眠っていても「愛してる」と伝えながら優里は智明を立ち上がらせ、優里の中へと招き入れるのだ。
見知っている手段に甘んじてしまっていることも分かっているが、智明から離れられないのも今の優里の本心なのだ。