フライデーナイト ②
一方その頃。
国生警察仮設署から走り出た二台のバイクは、西淡地区松帆西路のマンションへ着いたところだった。
「送ってくれてありがとう」
「いや、今日は恭子に色々助けてもらったからな。こっちが礼を言わなきゃだよ」
「色々ありがとうございました」
恭子と紀夫がくっつきながら話している間に、田尻のバイクから下りた真が一言挟んだ。
夕方の一件で恭子が医者二人を連れてきてくれたことは聞いていたので、恋人同士のやり取りと知りつつも真は口を挟んでいた。
「いいよ。それより、具合が悪くなる前に病院に行ってね。頭を打ってたら本当に急に調子崩すし危ないから」
「はい。あざっす」
「なにはともあれ、もうこんなややこしいことに付き合わせることはないと思うから、しっかり寝て仕事頑張ってな」
真の元気な返事に苦笑しながら、紀夫は恭子を引き寄せる。
「また会えるよね?」
「当たり前だ。あんな恥ずかしいこと言ったの、恭子が初めてだっつーの」
「信じてるからね。私、諦めが悪い子だからね」
「分かってる。俺も一途だから。な」
ちょっと長くなりそうな雰囲気を感じて、田尻は真の袖を引いて静かにバイクを押して行く。
紀夫はそれに気付き、一瞬目線を向けてから、恭子を抱き寄せてキスをした。
「明日の夜までに連絡する。それでいいか?」
「夕方六時までに必ずして」
「お、おお、分かった。必ずだ」
予想以上に重い約束に当惑しつつ、紀夫はもう一度キスをしてヘルメットを被る。
エンジンをかけ恭子に手を振って田尻たちが待つ角までバイクを進めた。
「もういいのか?」
「おう」
田尻の問いに答え、二台のバイクは西淡湊へ向けて走り出す。
「じゃあ、後でな」
「あざっす!」
真の自宅前で解散した三人だったが、食事や仮眠をとったあと再び集合する相談はすでに済んでいる。
――もう一回智明と会って話をしなきゃ――
真は決意を固めながら自宅の門をくぐり、そのための手段を田尻と紀夫にすでに打ち明けている。
バイクチームWSSの組織力と機動力を借りるため、本田哲郎との面会を希望したのだ。
どのみち田尻と紀夫はテツオに指示の進捗を報告しなければならず、そのアポイント時に真の希望を伝えた結果、真の要望は叶えられた。
金曜の夜はまだ深まり始めたばかりだ。