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譲り羽  ―ゆずりは―  作者: 天野鉄心
第十章 独立戦線/防衛派遣
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高まる波動 ②

 貴美の突然の行動に体のバランスを崩したサヤカが慌てて手足をバタつかせたが、身のこなしの軽さで補って無理のない態勢で一緒に床に倒れてくれた。


「なんだ?」「はあ!?」「クイーン!」


 サヤカと行動を共にしていた者たちも、五階で待ち受けていた智明の仲間たちも、叫んだあとに急に倒れた貴美とサヤカを訝しみ、戦いの手を止めて呆けた顔を向けてくる。


 その様を見たサヤカが「伏せて!」と念押ししたのと同時。


 背後から突き飛ばされたような大きな衝撃が起こり、それが建物全体の揺れだと思い付いた頃には急落した縦揺れから小刻みな横揺れに変わっていて、物音が収まるまでの十数秒は悲鳴も挙げずに全員が沈黙した。


「……地震、け?」


 沈黙を破ったのは倒れている誰か。


「――にしては早く収まったべ?」


 これは体を起こしたサヤカの仲間。

 貴美も体を起こしてサヤカの方を向きながら、全員に聞かせるように告げる。


「今のはトモアキの力だ」

「え、ホントに? 震度四くらいの地震だったよ?」

「トモアキの波動が大きく膨らむのを感じたので間違いない。地震ではなく、恐らく爆発」


 体を起こしながら応じたサヤカに合わせて貴美は先に立ち上がり、智明の凶暴な力が振るわれた南の方角を振り仰ぐ。


「……爆発って、例の水爆かましたっていう?」

「ああ、あのニュースなったやつの……」

「超ヤベェ単語が連発だな」

「うちのキングならやりかねへんわ」

「自分の言葉に興奮して無茶するタイプだからな……」


 敵味方に分かれていたことを忘れているのではと思うほど皆が口々に予想や不安を漏らしていくので、もう少し詳しく感じ取っている貴美が説明してやらねばと思う。


「今のは以前とは比べ物にならないくらい規模は小さい故、ご安心なされ。

 私が感じた限り、トモアキは加減を加えている故、大きく地形を変えたり、人の命が奪われたりはない、はずだ。それよりも――」


 全員を見回すように言葉を並べた貴美は、一旦言葉を切って五階通路の奥へと歩んで行き、一つの扉の前で止まる。


「――ユリ殿の容態が思わしくない。その様子を伺う故、これより先は男子禁制で願いたい」


 尻上がりに言葉を強めた貴美は、サヤカを見つめながら言い切った。


「シックスセンス。彼らをお願い」

「ウッス!」


 貴美の意図を明確に汲んだサヤカはヘルメットを脱ぎながら仲間に命令し、貴美よりも颯爽と男たちの間を歩いて通る。

 その傍らでは命令に従順な仲間たちが即座に手近な紺色の一団を抑え込み、貴美とサヤカの注文通りの形を実現していく。


「行こっか」

「ん。参る」


 貴美がドアノブに手をかけて扉を開くと、そこにはソファーに寝かされた少女と美しい立ち姿で控えていた女性が二人を迎え入れた。


「はじめまして。会いたかったわ、クイーン」

「三輪和美……」


 貴美の知らない女性だったが、『はじめまして』と挨拶した女性のことをサヤカは知っているかのように名前を呼んだ。

 穏やかではないサヤカの表情から貴美の知らない因縁を感じさせ、また一つ貴美の不安が増した。

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