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譲り羽  ―ゆずりは―  作者: 天野鉄心
第二章 明里新宮
31/485

初動 ②

   ※


 田尻は自分の勘を頼りにバイクを走らせていた。


 真が智明からの電話を受けて自宅に戻ると言い出し、赤坂恭子を送迎する紀夫と別れ、真の自宅近くのコンビニ前で待機していた。

 真からなにかあった時の備えの意味で頼まれたというのもあるし、バイクチームWSSウエストサイドストーリーズのリーダー本田鉄郎(ほんだてつお)への報告のためでもあるし、この一件を見届けなければならないという義務感もあった。

 智明が乗っていたバイクは、田尻と紀夫によって洲本市街地から中島病院に移動させていたから、智明がそのバイクで現れる可能性は低かったが、他に身を潜ませる手頃な店もないため、淡路サンセットライン沿いのコンビニでの待機となった。

 田尻が智明を見かけた場合は真に連絡する手はずで、田尻が気付かぬうちに真の前に現れた場合は真から田尻に連絡が来る手はず。

 しかし、待てど暮らせど智明らしき人物は通らず、真からの連絡もないまま、前触れなく雨雲が唐突に晴れ、目玉が破裂しそうなほどの眩い光に襲われ、直後にハンマーで打ち抜かれたような衝撃が音となって全身に感じられ、田尻は意識を失った。

 どれほどの時間気を失っていたのか定かではないが、田尻はフルフェイスヘルメットを被っていた幸運に感謝した。

 目を焼かれた際に本能的に回避行動をとり、頭をコンビニのウインドウにぶつけていたし、耳をやられてうずくまった所へ爆音の衝撃で割れたガラスが降り注いでいたからだ(田尻は気付いていなかったが、ヘルメットによって鼓膜へ届く音が幾分軽減されていて、鼓膜が破れずに済んでいたのが最大のラッキーだった)


 田尻は何が起こったのかは理解出来なかったが、しかし直感的に真と智明が引き起こしたことだろうと判断した。

 中島病院で遭遇したゾンビか怪物みたいな生物が智明だとするならば、脈略なく巻き起こった超常的な爆発も、恐らく智明がやったのだろうという憶測だ。

 ただこの辺りは田尻の活動している地域ではないため土地勘がなく、コンビニから見上げた方角だけを頼りにバイクを走らせなければならないので、なかなかに骨が折れる。

 一旦晴れた雨雲も元に戻ってしまって、雨で視界が悪いうえに濡れた坂道というのはバイクにとってフラストレーションが溜まっていく一方だ。

 何度か進んでは戻り、行き止まっては戻りを繰り返し、やっとそれらしい場所に出たと悟った。


 田畑の間を縫って山へと登っていく地道なのだが、谷を走る道の両側の山の稜線が不自然に削られて見えた。

 先へ進むと木々が一方向になぎ倒されており、雨中にも関わらず蒸気のような煙のようなモヤが立ち上っている。

 遂には倒木と土砂で道が塞がれ、バイクでは通れなくなってしまい、仕方なく田尻はバイクを停めて徒歩で進む。

「なんだ、こりゃ!?」

 一層濃くなったモヤに黒い影が横たわって見えたのだが、どうやら崩壊してしまった溜池のきだったようで、道にコンクリート塊をばら撒き決壊した堰きのアチコチから小さな滝が出来ていた。

 なんとか斜面をよじ登って堰きに登ってみると、溜池の周囲が奇麗な円形にえぐられていた。

「なんか、爆弾でも爆発したみたいな光景だな……」

 ――戦争モノの映画だっけ? バトルモノのアニメだっけ?――

 田尻の頭の中に月のクレーターの様な画像がいくつか浮かんだが、元ネタはハッキリと思い出せなかった。それよりも本来の目的を思い出し、そんなことはどうでもよくなっていた。

「まことぉぉぉぉぉっ!!」

 姿が見えないのでとりあえず名前を呼んでみる。返事なり体を動かした気配なりがあれば、真がここにいる証拠になるから捜索する意味がある。

 が、目にしている景色が景色だけに、一瞬だけ『死んでたら返事はないよな』と不吉な考えがよぎり、田尻は慌てて頭を振ってマイナスイメージを捨て去ろうとする。

「……そんなのはさすがにお断りだからな」

 あえて口に出して否定し何度か真の名前を叫びながら、目を凝らし耳を澄ませる。

「ん? ……あれは?」

 右手側の斜面から小石が転がり落ちて来たので目を向けると、倒木や土砂の影に水色の布切れがあるように見えた。


「真! 真だよな?」

 ほうほうのていで斜面を進み木々の間を縫って近付いていくと、茶髪にライトブルーのボタンシャツにジーパンを履いた人影が倒れているのがハッキリと見て取れ、田尻は名前を呼びながらさらに近寄っていく。

〈紀夫! 真がヤバイことになってる! GPS辿って俺んとこまで来てくれ!〉

 足が滑ったり手を泥だらけにしながら田尻は紀夫にメッセージを送り、倒木を乗り越え、さらに近付く。

 茶髪の人影はうつ伏せに倒れているのでまだ顔は確かめられないが、背格好からみて真に間違いないと思えた。

「真! 生きてるな? 死んでないよな? おい真!」

 ようやっと傍まで辿り着き、人影を仰向けにさせると、目を閉じ苦悶の表情を浮かべた真だと確かめられた。

 田尻は絶えず声をかけながら真の頬を叩き、首に手を当てて生きていることを確かめていく。

「……う、うう……。田尻、さん?」

「真! 良かった。生きてた! なんでこんなことになってんだよ!」

 体を揺さぶって頬を叩くうちに、ようやっと目を開けた真に問うが、まだ真は意識が朦朧としているのか苦しそうな声を漏らすだけで明確な返事はない。

「とりあえず、下まで運ぶからな。痛くても我慢してくれよ」

 田尻は真に声をかけ、足場が悪い中で真を抱き起こし、紀夫に電話をかける。

 ――看護師とヤッてる最中でも、さすがに今日は急いで来てくれよ――

 中島病院の看護師・赤坂恭子とのセックスの邪魔をすると分かっていても、今の田尻は紀夫を頼るしかなかった。

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