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譲り羽  ―ゆずりは―  作者: 天野鉄心
第九章 光のレイライン
261/485

絡み始めた意図 ④

   ※


 ――淡路市某所。


「皆、集まったか?」

「シュンイチくんけ?」

「ほのアタマはなんな?」

「急なマジメ君やな」

「服もダサイね」


 室内に入って来た黒髪の男に、すでに集まって寛いでいた四人の男女から一斉にツッコミが入った。


「軽い変装や。それより首尾はどないや?」


 空いていた椅子に腰掛けながらシュンイチが問うと、一番体格の良い男が肩をすくめる。


「自衛隊に外からアタックするんは難しわ。賀集のスポーツ施設から新宮の下に拠点移しよったよってん尚更じゃ。ほれでん拾えた話はあっけんど確定がでらん」

「さすがクマへー。それで?」


 シュンイチに促されてクマへーが答える。


「オンラインゲーム好きの自衛官のこぼれ話やと、明後日になんか動きがあるみたいじゃの。ゲーム狂の男が『明後日からしばらくゲーム出来ん』言うて嘆いとったわ」


 クマへーと繋がっている自衛官がどの地域に居るのか分からないが、参考にはなる。


「トーナンは? なんかあるか?」

「ウエッサイが慶野松原あたりで集合しとるらしい」


 トーナンと呼ばれた小柄で痩せた男が応じる。


「普段やったら海水浴場のデカイ駐車場で溜まっとるのに、今回は本田の会社の工場か倉庫に泊まり込みらしい。幹部から見習いの下っ端まで勢揃いらしいから、なんかヤラカス雰囲気はあるわ」

「嫌な感じやな」


 トーナンの確度の高い情報にシュンイチは顔をしかめた。


「ナンキーの方は?」

「さっぱりじゃ。キングやったっけ? ほいつの自宅に人の気配はないし、近所の人らも『最近姿を見てない』言うとっとら。職場も『欠勤しとる』言うとったし、もしかしたぁアワジおらんかもじょ」


 小柄だがマッチョ体型のナンキーが顎をしゃくって絶望的な進捗状況を伝えてきた。


「なかなか厳しいな。バンビは? そのへんのフォロー出来てるか?」


 無理難題はシュンイチも承知しているのか、ため息混じりに受けて唯一の女性に話を向ける。


 ショートカットに赤いフレームの眼鏡をかけた小柄で細身の女が答える。


「ネットサーフィンが趣味でも私はオタクやハッカーじゃないんだけど。フォローといえばフォローになるかな」

「頼む」

「うん。ニュース記事からの推測だけど、クマへー君の情報通り明後日には自衛隊が動きそうよ。

 一昨日あんなに加熱してた自衛隊の攻撃行動を問題視する報道が急に静まり始めてる。ネット記事だけじゃなくて、ニュース番組や情報動画でも扱わなくなってきてるし、総理大臣の会見についての報道もあっさりと流されてる。

 反対に、野党が無駄に与党バッシングや財政や遷都関連の黒い噂を追求し始めてて、作為的な規制とか誘導を感じるかな。

 あと、島内の警察署や消防署が変な動きをしてる」


 伏し目がちに仮想キーボードを操りながらスラスラと話したバンビに全員が注目する中、シュンイチが問う。


「変な動きってなんや?」

「ホームページとか交番の掲示板って、『防犯に努めましょう』とか『防火にご協力を』みたいのばかりじゃない?

 それが『災害に備えましょう』とか『避難所を確かめておきましょう』みたいな啓発を行ってるの」

「思い出した! 俺の知り合いの土建屋が明日から急に休みになった言うて首傾げとっとられ」

「あ、うちの実家の取引先も役所から休業要請言われたとか言うとったな」


 バンビの返事にクマへーとトーナンが付け加えた。


「こりゃ、明後日あたりになんかやりよるんは確定やな」


 ナンキーが予想を口にするとシュンイチは唸ってまとめに入る。


「そうやな。店とか工事を休業させてまでって言うたらかなり大掛かりで広範囲や。もしかしたら明後日以降の数日間のどっかでおっ始めよるな。

 バンビ、キングの親の方は何もないか?」

「ごめん。個人の行方はネットじゃ分からないよ」


 仮想キーボードから手をおろし申し訳なさそうに肩をすくめたバンビに、隣りに座っていたナンキーがそっと手を伸ばした。


「しゃーないわ。そっちは期限もないしな。

 ほな、引き続き調べてなんかあったら連絡くれ。またタイミング見て集まるし」


 シュンイチはバンビを気遣うように明るい声を出して立ち上がり、さっき入って来たばかりの出入り口へと歩き出す。


「シュンイチくんはこれからどないするん?」

「俺? 俺は今から真面目くんになって大阪に潜入捜査や。ボクちゃんもちゃんと働いてますよん」


 トーナンの呼びかけにおどけて見せたシュンイチだが、その動きに油断や隙きはない。

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