真偽 ④
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「――という流れでジンベさんのところに転がり込んだわけなんです」
昼過ぎから居座っている国道28号線沿いのファミリーレストランで、城ヶ崎真はようやく長い説明を終えた。
いつものように夜遊びに出掛けた折りに智明が体調を崩し、テツオの指示で駆け付けてくれた田尻と紀夫に手伝ってもらって智明を中島病院へ運び込んだこと。
その診察の途中で智明の容態が急変したらしく、怪物かゾンビのような姿になった智明が病院の壁や入り口を壊して逃走したこと。
その後、連絡の取れた智明と落ち合い話をしたが、山中の貯水池へ空を飛んで連れて行かれ、爆発騒ぎに巻き込まれたこと。
その直後に智明は幼馴染みである鬼頭優里を連れ出し、新皇居に立て籠もったこと。
この時点で真は智明が人智を超えた超能力を身に着けた事を知らしめられ、テツオに助力を仰いだことで体をナノマシンで強化するHDを与えてもらい、空中を飛行するためのエアジャイロと強化版空気砲とでも呼ぶべきエアバレットを手に入れた。
そして自衛隊よりも先に智明と戦うべく淡路島へと舞い戻り、一戦交えた結果自衛隊の攻撃が開始されたことで水入りとなり、ジンベを頼って転がり込んだところまで話し終えた。
四人がけブースの椅子の背もたれと間仕切りに寄り掛かり、腕組みと足組みした態勢で聞いていたジンベは、なんとも難しい顔で黙って聞いていた。
「おい、なんか言えよ」
「テツオさんが『巻き込むな』って言ったのが分かったろ」
黙っているジンべに田尻と紀夫から声がかかり、ジンベは足組みを解いて腕組みのまま両肘をテーブルに乗せて答える。
「まあ確かに、自衛隊とか骨を金属にして筋肉を樹脂やゴムみたいのに変えるナノマシンとか、空飛べるアイテムみたいのはヤバイからな。リーダーの言い分も分かるよ」
テーブルにへばりつくようにして話すジンベは少し寂しそうな雰囲気を漂わせる。
「色んなツテを使ってそこまで準備して、自衛隊が割って入るまでやり合ったってのも、さすがだと思うしな。最終的に俺を頼ってくれたのもちょっと嬉しい」
口角をあげて笑ったジンべだが、すぐにまた表情を変える。
「なんだよ?」
「いや、その高橋智明だっけか? そいつ、なんでそんな能力身につけて自衛隊なんかとやり合ってんのよ? わざわざそんな目立つやり方したら、それこそコイツや俺らみたいのが現れるって分かりそうなものなのに」
紀夫に促されて答えたジンベの疑問に、田尻は呆れた顔をする。『コイツ』呼ばわりされた真も苦笑してしまう。
「んなこと知るかよ」
紀夫が一言で切り捨ててそっぽを向くが、真は智明の幼馴染みとしてフォローを入れる。
「アイツ、そこまで周り見て動けるタイプじゃないですから。さっきも言いましたけど、自分の体が血塗れでテンパって病院から逃げた奴ですから。そんな戦略なんか考えれてないですよ」
ジロリと目だけを真の方に向けたジンベは納得できない感じで「そんなもんかね」と返す。
ジンベの様子から話の切り上げ時だと感じたのか、さっきジンべを切って捨てた紀夫が窓の外を見ながら口を開く。
「ともかく、これで事態のヤバさとか勝手な行動や派手な事が出来ないってのは分かっただろ。変なことはするなよ」
「まーなー。警察とか自衛隊に単騎で突っ込んでいくほど俺も馬鹿じゃないからな。超能力者に勝てるとも思ってねーしな」
紀夫に同意する形でジンベは体を起こして答えたが、その口元は薄く笑っている。
「全然そんな感じしないぞ」
とは田尻。
ジンベのチーム愛と暴走具合は言葉通りではないらしい。
「てかよ、その智明対策とかいうエアバレットとエアジャイロだっけ? 面白そうなオモチャじゃないか。超能力よりそっちのが興味あるんだよ」
声のトーンや表情まで変えて話題転換したジンベに、真は肩透かしを食って愛想笑いを漏らす。
「お前なぁ……」
「忘れてたわ。ジンベってバイク屋のせいかメカフェチだったっけな」
真と同様にやや口元を引きつらせて田尻と紀夫が呟き、真も意外な事実に「メカフェチっすか」と受けてしまう。
「フェチは言いすぎだろ。バイクも鉄砲も大抵の男にゃ好物だろ。空飛べるとか興奮するだろ」
「ジンべさん、声デカイっす」
少し声が大きくなったジンベをとりなしつつ、真はすっかり日が暮れて日曜の夕食時で混雑し始めた店内を気にする。
「誰も危ない話だなんて思わないから構わねーよ。それより、リーダーがこういう時に引っ張ってきたオモチャなんだ。面白くないわけがない。そうなんだろ?」
やはり声のボリュームを下げないジンべに真は慌てるが、確かにエアバレットやエアジャイロの詳細を口にしても先進的で危険な道具には聞こえない気もする。
だからといって自慢げに話せるわけではないが。
「そりゃあ、そうだわな」
「けど、普通の人間に扱えるわけじゃあない。そういう代物だ」
「いいね、いいね!」
真の慌てぶりを気にも止めずに田尻と紀夫はジンべに勿体つけて話していく。
さすがにヒソヒソ声ではあったが、混雑しているファミリーレストランでする話ではない。
「そのへんにしときましょうよ……」
「大丈夫だって。んで、なんだっけ? 普通じゃ扱えないって、アレか? さっき言ってた体を強化するナノマシンが必要なんだったっけ?」




