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譲り羽  ―ゆずりは―  作者: 天野鉄心
第五章 激突
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混戦 ①

「なかなかやるじゃないか」


 皇居外周に築かれた囲いを飛び越え、防衛のためにいたであろう一団を蹴散らした後、本田鉄郎(ほんだてつお)は皇居の本来の囲いにまで肉迫していた。

 先程の呟きは、雨中でありながら超能力者と対等に戦っているように見えた真への賛辞だ。


 ――一人で突っ込むなって話はないがしろだけどな――


 先日話したチーム戦や仲間の話はどこへやらで、遠目に見てもエアバレットは連射され続けているし、智明の攻撃をかわすためかエアジャイロも酷使されている。


「ん? どこ行った? 消えた、か?」


 思考が横道にそれた拍子に、見上げている視界には真一人だけしか居なかった。

 貴美の予報通りやや雨足が強まってきたようだが、そのせいで見失ったわけではなさそうで、真は智明を探して空中を彷徨って見えた。


〈真。今真下に居るんだが、どんな状況だ?〉

〈テツオさん? さっきまで智明と撃ち合ってたんですけど、瞬間移動かなんかで消えちゃったっす〉

〈テレポートか。ホント厄介だな。とりあえず、そろそろクーリングタイムだろ。一回降りてこい〉

〈…………ウッス〉


 エアバレットもエアジャイロも使用の度に内部に熱が発生するため、連続使用で電子機器や装置を傷めない為に冷却を行わなければならない。

 その指摘を受けた真は、智明を追いたい気持ちとテツオに従うべき気持ちとを戦わせたようで、返事までに少し間があった。


 ――ま、若いからな――


 真はまだ十五歳だ。即時的な結果を求めたがるのは仕方ないと理解しつつ、葛藤があったことを隠せないことに年下の可愛さも感じる。


〈瀬名。そっちはどうだ?〉

〈俺は休憩中だぜー。田尻と紀夫でもたせてるとこだ〉


 真がテツオの元へ降りてくるうちに南から迫っている瀬名の進捗を確かめてみたが、突破には至っていなかったようだ。


〈突破しろとは言わないが、なんとかならないか?〉

〈相手が生身って考えたら、威力を上げれなくってなぁ。あと、雨のせいで弾ぁ弱くなっちまってるぞ〉

〈やっぱそーだよなー〉


 今回ばかりは右腕と頼るチーム幹部でもテツオの注文には答えられないようだ。

 加えて、事前の説明でもあったようにエアバレットとエアジャイロは雨や水に対してその能力は著しく減衰するようで、真と智明の戦闘でもその様子は見て取れていた。

 テツオは更に懸案事項を差し向ける。


〈てかさ、そろそろ自衛隊が着く頃だぞ〉

〈…………そんときゃ壁飛び越えてアイツらを挟んじまおうかなー、なんてな〉


 よっぽど疲れているのか、瀬名らしくないやけっぱちなジョークが返ってきた。が、テツオは面白い考えだと思った。


〈それ、いいな。どうせもうすぐ田尻と紀夫もクーリングタイムだろ? 一回引っ込んで全員で飛び越えたら楽しいことになるんじゃねーか?〉


 囲いを盾にされている為に攻めにくいのであれば、飛び越えて囲いを取っ払ってしまおうという考えだ。出発前の情報通りならば自衛隊が到着してもおかしくない時間だし、自衛隊が攻めてくれば瀬名たちと戦っている連中は前後から攻撃を受ける形になる。

 拮抗している局面は大きく変わるに違いない。


〈無茶いうねー。アイツらをぶっ倒したら、そのまま自衛隊とやることになるじゃねーか。マジかよリーダー?〉

〈そこまで言わないって。足止めか膠着状態でいいんだよ。それよりも自衛隊とアワボーに挟まれる方がキツイだろ? こっちは飛べるんだし、逃げ打つのは簡単だろ〉

〈そりゃそうだ。分かったよー〉

〈頼む〉


 通話越しでもわかる瀬名のニヤリとした笑みを感じ、信頼ゆえの無茶振りをしてテツオは通話を終える。


 そこへ真が降りてきて、緊張が溶けたのかその場に座り込んでしまう。

 テツオと真が居るのは、『目』の字に区切られた真ん中の区画で、最奥の本殿に近い寮のような建物の軒下だ。


「疲れたか?」

「ちょっとだけ。飛びながら攻撃とかはそうでもないっすけど、やっぱり避けるのが神経使うっすよ。智明がどんくらいの強さで撃ってきてるのか分かんないっすから。さっきエアバレットの真ん中くらいのと打ち消し合いましたからね。そんなの何発も当てられたらさすがに無事じゃすまないから」


 これまでの発言に比べれば、真にしては慎重で冷静な判断をしていて、テツオは少し光明が見えたように思う。


「障壁だっけ? 空気の壁みたいのは結局破れなかったんだな」

「雨だし、まだ全開じゃないですから」

「けどアイツの攻撃は見えてるんだろ? ここから見てて、何発か避けてたように見えたぞ?」


 エアジャイロが雨を吸い込んで速度が出せなかったり、エアバレットの威力が落ちて弾道が見えたりと雨天のデメリットばかり目立ったが、智明の攻撃や障壁も雨が幸いして目に見えるなら、これはメリットであり好機だ。


「まぁ、雨のお陰で見えなくはないですけど」

「そいつを利用しよう。こっから見てる方がトモアキの攻撃は結構見えたんだ」


 思い付いた作戦を早く試したくてテツオの顔はハツラツとした自信の笑みに染まる。


「どうするんすか?」

「こっちもチョウノウリョクを使うのさ」


 テツオの言葉の意味がわからず、真は小さく首を傾げた。


「俺とお前が連携して、瞬間移動したように見せるんだ」

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