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譲り羽  ―ゆずりは―  作者: 天野鉄心
第五章 激突
138/485

決起 ⑥

   ※


「おっ!」

「へぇ~~」

「準備万端だな」


 サヤカを伴い東屋に入って来た貴美を見て、田尻と紀夫は感嘆し、テツオはニヤリと笑った。

 貴美が山伏とも呼ばれる修験者だと分かっていても、白い装束に黒髪を流した貴美の佇まいは神秘的で不思議な雰囲気を纏っているからだ。

 和風な面立ちも理由の一つかもしれない。


「やっぱり似合うね」

「ありがとう」


 ストレートな真の褒め方に、貴美はやや頬を赤らめて礼を言った。


「よーし! じゃあ作戦会議だー」

「っていうほど複雑なもんじゃないけどな」


 一つ手を打って全員の目を集めた瀬名だったが、即座にテツオが打ち消して雰囲気を改める。


「チームのメンバーを集めたけど、基本的に智明をぶっ倒しに行くのは俺ら六人だ。そこの道を上がっていったら皇居の正面に出るから、まずは瀬名と田尻と紀夫の三人が突っ込む」


 既に示し合わせができていたようで、テツオの言葉に瀬名ら三人が頷く。


「そんで、タイミング合わせて北側から真が飛んでいって智明を探す」

「ハイ」


 しっかりとした視線をテツオに向けながら真が返事をした。


「で、俺とキミは木陰や物陰から真をサポートする」

「サポート? とは?」


 互いを順に指し示したテツオに対し、キミは即座に聞き返した。


「うんと、相手はキミみたいに手を使わずに攻撃したり、空中を素早く移動したり出来るからな。俺らもHDで身体能力が上がってるって言っても、武器も攻撃も直接当てるタイプだ。だから、そういうのが通用しなかった時の隠し玉みたいな感じで、キミを最終手段にしたいんだよ」

「なるほど」


 少し言葉を選んで話したテツオに、キミは一応の理解を示した。


「……あと、一つだけお願いもあるんだ」

「お願い?」


 今度は真が貴美の前に進み出て口を開いた。


「そう。昨夜の夢で優里が出てきたろ? もし優里が居るなら見つけて連れ出せないかなって。キミなら、優里を探せるんじゃないかなって思ったから」

「……出来なくはないけど」


 貴美は真の願いに沿うような返事をしたが、語尾が示すように確約はしなかった。

 真から視線を反らしたことからも何か思うところがある様子だ。


「も、もちろん、優里がウンと言わなきゃ無理強いできないのは分かってるから」


 貴美が気にしたのは優里の意志を尊重するか否かではなかったようだが、『是が非でも連れ去ってほしい』という誤解を招かないために、真はそう付け足した。


「……分かった。優里殿を探し出して話をしてみる」

「ありがとう!」


 貴美が了承してくれたので、真は丁寧に頭を下げた。

 と、テツオが手を打って全員の注意を引く。


「さあ! 自衛隊が来る前に始めちまうぞ! 目的は一緒でも共同戦線とはいかないからな!」

「ウッス!」


「ウエッサイぃッ!!」

 チーム名を叫びながらテツオが右手を突き上げると、公園に集まったメンバー全員が右手を突き上げ、チーム名を唱和した。


   ― ― ―


「…………もう、行くん?」


 鬼頭優里はソファーから立ち上がった智明を見上げてつぶやいた。


「ああ。自衛隊が近付いてるし、ちょっと嫌な予感もするからな」


 すでに智明は演説を行った際の赤い軍服と白いスラックスに着替えており、襟元を正しながら優里に応えた。


「そうやね。殺気やないけど、サウナみたいに空気がまとわりつく感じがする」


 優里も着替えは済んでおり、演説に立ち会った時のドレスをゆったりさせたものに、智明の外衣に似せたデザインの上着を重ねている。


「リリーは、ここに居れば何の心配もない。抵抗するとややこしいし、最悪俺に誘拐されたって言ってくれていい」

「そんなん、あかんよ」


 優里も立ち上がって智明の提案を拒否する。


「俺はやり直せない罪がある。でもリリーはそうじゃない。逃げ道っていうか、そういうのはあっていいはずだ」

「モアと同罪やって言うたもん。バイクチームの人らを裏切ることはできへんよ」


 優里だけでなく、淡路暴走団や空留橘頭も巻き込んでいた事を指摘され、智明は失念していたことを詫びる。


「そうだった。ごめん」


 優里に向き直り、優里の手を引いて抱き寄せる。


「無理はしない。言葉にしたことは、やる。ただ、リリーも無茶なことはしないで欲しい」


 今朝、優里が治癒の能力を使って回るような言い方をしたので、智明はもう一度釘を刺しておく。

 最悪の事態を想定した場合、智明が優里のピンチに駆けつけられないケースもあると想像してしまうからだ。


「分かってる」


 もうこれ以上の問答は不要だと悟ったのか、智明の体を軽く押し返して抱擁を緩めさせ、優里は瞼を閉じて顔を上げた。

 智明も優里の意図を察し、そっと唇を重ねる。


「……行ってくる」

「ん。行ってらっしゃい」


 ゆっくりと体を離していく智明に、優里は笑顔で送り出そうとしてくれたが、口元は笑っていてもその瞳には不安の色がありありと表れていた。


   ― ― ―


《川崎さん。どんな感じ?》

《ああ、キングか。外苑に半分向かわせたとこじゃ。念の為、裏手に三十人回しとる》

《残りの二十人は?》

《厳密には三十人やねけど、正門から本宮を巡回させとる。何があるか分からんよっての》

《流石だね》

《キングは? なんや動いとる感じやの?》

《今、本宮の玄関の辺りだよ。なるべく相手が見えるとこにいようと思ってね》

《ほうなんじょ。……まあ、なるべくキングの出番がないように頑張るさかい、勝ったらみんなに褒美でもやったって》

《はは。考えておくよ》

《よっしゃ! ……外苑になんか来たみたいじゃ。また連絡しょーぞ》


 川崎との伝心を終え、明里新宮本宮の玄関を開けて智明が最初に目にしたのは、本降りの雨の中を、本宮裏手から外苑の方へ飛んでいく人型の物体だった。


「自衛隊じゃ、ない? なんだ?」


 胸の内にくすぶっていた嫌な予感が一気に膨らんだ。

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