決起 ②
「資料では、漫画のような不可思議な出来事が起こったとありました」
「うん。……少年時代にオカルトやホラーに興味のあった時期もあったが、この歳になってから相対さなければならないというのはな。……現実味がないよ」
一気に表情を緩め、川口はソファーの背もたれに体を預けて腕組みをする。
「自分は、宇宙人の存在を信じてました。入隊してからは口にも出しませんでしたが」
照れ笑いを見せながら頭をかく野元は、任務中には見せない少年の目になってしまう。
「その様子だとまだ信じているクチだな」
「ああ、はは……。入隊前は空自を希望しておりましたが、同輩や教官から『不真面目だ・不純だ』と叱られまして。勿論、今では趣味と任務は分けておりますです」
図星を突かれ赤面する野元だが、令和初期には航空自衛隊の防空規範に『UFO遭遇時の対処』の項目が設けられたくらいなので、あながち不真面目とはいえない。
UFO見たさに航空自衛隊に入隊するのは不純だろうとは思うが。
それ以前に川口も野元を笑える立場ではない。
「いや、『南極ゴジラ』が存在するか否かを確かめたくて、南極観測隊に憧れていた私には馬鹿にはできない話だ」
『南極ゴジラ』とは南極大陸近海で目撃された未確認生物の通称で、平成末期に話題になった都市伝説の一つだ。複数の者が同時に目撃していることから信憑性が高いものと言われる反面、過酷な環境下での集団幻覚ではとも言われている。
「UMAでありますか。しかし川口一佐が南極観測隊を目指されていたとは、初耳です」
オカルトを愛好する同志を見つけたからか、野元は普段通りのシャンとした姿勢で朗らかに笑う。対して川口は苦笑をもらす。
「若かったのさ。……それより、これでは本当に居酒屋の雑談だ。話を任務に則したものに切り替えよう」
「はっ。申し訳ありません。……となりますと、一佐は超能力をどのようにお考えでありましょうか?」
真剣な表情で問う野元に苦笑しつつ、川口も姿勢を正して答える。
「これまでにテレビや雑誌で取り上げられている超能力は、箱の中身や封筒の中身を当てたり、スプーンを曲げたりというものばかりだ。大昔には月の裏側を念写したりというものもあったそうだが、その程度であれば我々の出番とはならないだろう」
静かに語る川口に、野元はいちいち頷く。
「では、銃火器を必要とするほど強力である、とお考えなのですね?」
「少なくとも機動隊の装備では敵わなかった、ということだからな」
「よもやアニメや漫画のように、都市を壊滅させたり戦車を持ち上げたりなどの力があるとか――」
「想像で大きくしてはいけない。備えることと、夢見ることは別物だ」
「失礼いたしました!」
自衛隊駐屯地の司令官室にて、時折脱線しかけながらも、高橋智明対策は長時間に渡って詰められていった。




