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譲り羽  ―ゆずりは―  作者: 天野鉄心
第一章 三つの仔
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十五歳の日常 ①

ようこそお越しくださいましたm(_ _)m


SF長編「譲り羽」の始まりでございます。


第一章では

「小学校からの幼馴染み、智明・優里・真は、高校進学を控えた中学三年生。

氾濫するインターネット情報やゲームコンテンツ、進学や試験勉強、家庭の問題や未成年者が手に入れることの出来ない先進技術への憧れなどが、家庭と学校という日常の中で他愛なく通り過ぎていく。

しかし、いつも通りだったはずの日常に変化が起き、事件へと発展してしまい、三人の関係性が変わってしまうーー。」

こんな感じに話が進みます。


長い物語なので、よろしくお付き合い下さいませ

m(_ _)m

「おまはん、また落書きか?」

「うえ? ……うっす」


 いつの間にか近寄っていた教師に指摘され驚いた少年は、現場を押さえられているので仕方なく認めた。


「……上手ん描けとっけんど、それ以上描いたぁ警察に逮捕されんぞ。退屈な授業か知らんけど、それでも今ぁ授業中じゃ」

「さーせん」


 淡路弁の訛りの残った関西弁で注意する歴史科教師だったが、ニヘラニヘラと媚びた笑いを浮かべる少年をしばらく見つめ、教師はため息とともに振り返って教壇へ戻り、また淡々と授業を再開する。


 しばらくしてチャイムがなり、教師の退室を待たずに教室は一気に騒々しくなる。


 女子生徒数人の噂話や愚痴、男子生徒達のおふざけや脈略のない嬌声があちこちで飛び交う。


「またオフラインアプリで洋物の模写(コピー)でもしてたのか?」


 背中をつつきながら声をかけたのは、先程の少年の一つ後ろの席に座る高橋智明(たかはしともあき)

 目にかかるほど伸びた黒髪は地味な印象で、半袖から出ている腕も細くて白く、インドアで大人しそうな顔立ち。


 智明と、背中をつつかれた少年城ヶ崎真(じょうがさきまこと)は、小学校入学以来からの幼馴染みだ。

 智明とは打って変わって真の髪の毛は脱色して茶色く、センター分けにセットされた髪型と折り返した制服の袖からヤンチャな印象が出ている。肌も日焼けしていて活発さが表れてい、一重だが整った顔立ちだ。


「ちゃうちゃう。この前、新しいアプリ見つけたんだ。ホレ」


 真は智明に振り向きながら歴史のノートを手渡してきた。


「どれどれ。……んん? これ、リリーか?」


 ノートいっぱいにシャープペンシルで描かれていたのは、椅子に腰掛けているであろう女子生徒の後ろ姿だ。

 モデルとなった本人に聞こえないように小声だったが、智明はしっかりと女子生徒のあだ名を呼んでしまった。

 椅子を廃して人物だけが描かれているので、一見すると空気椅子をしているように見えてしまい、すぐには分かりづらい。

 しかし〇.六ミリのシャープペンシルは女子生徒の制服と肢体を見事に描ききり、ポニーテールにしている髪ゴムの飾りやソックスのワンポイントまで克明に描いているので、智明にはモデルが誰なのかすぐに判別できた。


 智明と真の席の右斜め前三メートル先に座る鬼頭優里(きとうゆり)の姿に間違いない。

 優里は中学三年生にしては発育がよく、智明や真と変わらない身長でありながらスマートで、スラリとして見えるのに胸もお尻も女性らしい丸みがある。

 艷やかな黒の長髪も女性らしく揺れて目を引くが、大きな瞳と小さく整った鼻と薄い唇が表情豊かに細い顎の輪郭に収まっている様は大人っぽい魅力に溢れている。


「流石だな。授業中もずっと眺めてんのか?」

「んなアホな。しかし、なんでこんなものが書けるんだ?」


 智明がモデルを言い当てたことに真は感嘆しつつも下卑た想像を口にしたが、そんなものは彼らの間では日常的な会話に過ぎないので一蹴しておく。

 とはいえしかし、ノートに描かれているのは確かに優里の後ろ姿なのだが、下着と思われる書き足しがなされているので、その仕組みを理解できなかったので率直に問うた。


「へへん。このアプリはスクショしたモデルの服のわずかな陰影を補正して透視できるんだよ。そいつをいつもの模写アプリでチョイチョイチョイ!というわけさ。しかもオフラインで使えんだ。すごいだろ?」

「すげーな! やっぱハベっとくべきだよなぁ」

「バカ! 声がでけーよ」

「イッタ! ……悪い悪い」


 結構遠慮のない力で頭をシバかれたが、智明が真の秘密をうっかり口にした罰なのだから素直に謝った。


『ハベる』とは『H・B(ハーヴェー)化を行う』という隠語で、ナノマシンによって脳みそを電子機器化し脳内にスマート端末を有することをいう。


 無論、高度な医療行為を必要とすることから、法整備され未成年者への施術は禁止されている。

 真が智明以外には口外していない秘密だ。


「それより、アイツのセミヌードだぞ。色とか立体感はないけど、下着姿だ。どうだ? ムラムラきたか?」

「ムズムズはするけど、なんかいまいちだな」

「これでもダメなのか……。お前、不能なんじゃねーか?」


 真はいつも以上に手応えを感じていたようだが、智明があっさりと脈なしであることを告げたので、真は侮蔑の言葉をこぼした。


「ここまできたらそうかもしれん。すまんな」


 七月の誕生日を迎えると十五歳になる智明だが、未だに精通しておらず、朝立ちも勃起も未経験で、十三歳で男になった真から真剣に心配されている始末だ。

 だからといって授業中にクラスメイトのセミヌードを作成していいものではないのだが、智明を男にしてやろうと性描写を含んだ過激な動画や官能的なテキストを都合してくれる真に対して、智明は一方ならぬ感謝と謝罪の念を抱いてはいる。

 思えば智明と真の関わりは長く、小学校入学の頃からの付き合いで、ふざけ合ったり親身になってやったりと、幼馴染みどころか親友とも呼べる間柄だ。


「――さっき何書いてたん?」


 突然の女子の声に真は飛び上がらんばかりに慌てる。


「うわっと! 優里、急に現れるなっていつも言ってるだろ。女はな、男同士の間に割って入っちゃいけないって決まってるんだからな!」

「古い考え方やね。今時、男の後ろを三歩下がって歩く女なんかおれへんで」

「リリー。いつものアレだから見ない方がいいよってことだよ」


 顔中で嫌悪を表す優里に対し、智明は愛称で呼びかけた。


 優里も真同様、智明と小学校入学時からの付き合いで、中学校に入って男女を意識するようになるまではよく三人セットで遊んでいたりもした。

 中学校ではずっと別のクラスだったのも手伝って交流は途絶えていたのだが、三年生に上がって同じクラスになったことで、今のようにちょくちょく会話をすることがある。


「モアはジェントルメンやね、おおきに。コトのドスケベ!」


 優里は智明に笑顔で感謝したあと、真に向けて軽蔑の表情を作って去っていく。


「……可愛い顔してるのに、相変わらず口が汚いな」

「それだけ俺らと仲良くしてくれてるってことだよ」


 智明は真をやんわりと窘めたが、実際のところ優里が他人のことを悪く言うことはなく、誰に対しても愛想良く丁寧に接する。

 そんな愛想の良さと優里のやや大人びた容姿も手伝って、学内には優里のファンは多く、男子からは恋愛の対象として見られ女子からは友達になりたい憧れの対象として見られている。


 反対に、優里の取り巻きとも言える生徒達からすれば、優里とふざけ合ったり罵り合ったり屈託ない笑顔を交わし合ったり出来る智明と真はある種別枠の存在に置かれていて、下級生からは羨望の眼差しを頂戴し、不良やオタクからは不思議と一目置かれていたりして、労せずして快適なスクールライフを賜っている。


「成績良くて、あの顔でこのスタイルだからな」

 言いながら真は智明に別の紙片をペラリと示す。

「わっ! おま、なんてもんを!」


 ビックリしすぎて声高になったことに気付き、慌てて口をつぐんで紙片を机の中へ突っ込む智明。

 ほんの数秒だが目に入った紙片には、いつどこでこんなポーズをしたのか定かではないが、足を開き膝を立てて座っている優里の姿がオールヌードで描かれていた。


 先程のセミヌードと同じアプリを使ったうえで、服のラインを消しゴムで消すことで、真正面からのオールヌードに仕上げたようだ。


「丸見えじゃねーか!」

「ムラムラするだろ? 家宝にして良いぞ」


 流石に声を落として動揺を訴える智明に、真は威張りくさって応じる。


 情報化の進んだこの時代、青少年の健全な育成を目指して、未成年者が性的に過激なコンテンツを保有することは禁じられていて、その取り締まりと罰則はなかなかに厳しく、書物や印刷物にまで及ぶ。

 それでも抜け道があるのが社会というもので、売られている物を購入したりダウンロードしたりスクリーンショットで残せるし、真がやったようにアプリを使用して自ら作成することもできる。


 もちろん服を着た異性を無許可で撮影した挙げ句、ヌードをイメージして紙片に書き取り未成年者が保有することも違法だ。


「紙は処理に困るっつーの」


 興奮と動揺を押さえつつ真に恨み節を連ねるが、容姿に優れ朗らかな笑顔を向けてくれる女性のフルヌードを手に入れて迷惑なはずがない。

 ましてや好意を抱いていれば、真の両手を掴んで感謝し幾ばくかの金でも包もうかとさえ考えてしまう。

 思春期とはこういうものだろう。


「家に持って帰って画像に替えて保存しとけ。あとはシュレッダーで問題なしだ」


 イヤらしい笑顔を浮かべる真の悪知恵もまた思春期ゆえかもしれない。


「…………真君。ジュースが飲みたい時はいつでも言ってくれ。望みの品を一本、贈呈させてもらおうぞ」

「お! じゃあ早速昼飯の定食にコーラをつけてもらおうかな」

「お、おう。……ところで、お前もコレ、保存してるのか?」

「当たり前だろ。俺の持ってるアプリで描いたんだから、原画はココにある」


 変に爽やかな笑顔を見せながら真は自身のコメカミあたりを指さした。


「そりゃそうか」


 納得したような、落胆したような、複雑な気持ちで智明は机の中の紙片を手探りで確かめた。

 手に入れた喜びを再認識するとともに、少なくとも世界に二枚も存在することを残念に思った。


 もう一つ、智明にはどうしようもない悔しさがある。


 真はこの喜びを自慰によって個人的に達成せしめることができるのに対し、自分の性器は固く勃ち上がることさえできない。

 この違いは男として大きな差に感じ、真や教師達がひけらかすH・B(ハーヴェー)よりも羨ましく、劣等感として智明の心を妬いている。

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