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#実神鷹  ―知り合い― 5


 春の日光と風が心地いい、教室の隅。


 昼休みの教室。


 男子は僕しかいない。そして女子が2,3人のグループになって話をしている。昼休みの教室なんて毎日こんなものなのだ。食堂に屋上に中庭に……人は散ってしまった。


 青空にはうすい雲が一つあるだけ。その雲もゆっくりと、歩くような速さで空の上を進んでいる。


 「ねぇ、実神くん…」


 後ろから肩をとんと叩かれた。結構な回数聞いた声。僕は後ろを振り返る。


 「ん、どうした?岡後さん」


 言いながら僕は体ごと後ろを向き、両腕を背もたれに置いた。


 「あの、私たち、色んなこと話したよね。それで、まだ言ってないことがあるんだ……」

 

 「まだ言ってないこと、ね……。別に無理して言う必要はないよ?嫌なら隠しておいていいよ」


 朝の一件の後、僕達は休み時間ごとに話をした。教室の隅だからなのか、僕達の雰囲気からなのか、人が近づいてこなかったから、比較的話しやすかった。その前に、二人とも友達が少ないって言うのもあるんだろうけど……。とにかく、岡後さんと二人だったのだ。


 「別に、嫌じゃないんだけどね……」


 「――じゃあ、話してくれたら僕は聞くよ」


 「う、うん…………」


 岡後さんは、少し黙った。多分言いにくい事なんだろう。けど、僕はあえて何も言わず待っていた。今決心しようとしてるのかもしれないというのに、それをわざわざ邪魔したくは無かったから。すると、岡後さんは口を開いた。


 「私ね、家に両親がいないんだ……春休みから、ずっと。私が記憶喪失になるちょっと前に、仕事で家を出ちゃったんだって。だから、私、両親の顔、知らないんだ。と言うか、親っていうものがどういうものなのかよく分からないんだ……」


 「………………」


 「だから、聞きたいんだけど――親ってどういうものなのかな?」


 「親―――ね」


 「え?」


 不思議そうにこちらを覗う岡後さん。


 「親―――。親、親、親、親、親、親、親ね――何だろうな。親って」


 「何って………」


 何やってるんだ僕は。こんなところで岡後さんを困らせてどうする。落ち着け。

 

 僕は自分にそう訴えかけた。


 「ごめん。僕、親のことはよく分からないんだ。昔―――捨てられたからさ……」


 「捨てられた……?」


 岡後さんは意味がよく分からないという表情だ。こういう顔を見てしまうと、つい話してしまうのが僕の悪い癖なのかもしれない。


 「両親二人とも、僕が寝てる間に家を出て行ったんだ……。朝起きたら姉ちゃんと二人になっててさ。それが僕が6歳の時」


 「あ、そ、その、ごめん。悪いこと、聞いちゃったよね…」


 「そんな事無いよ。僕が勝手に喋っただけだから。岡後さんが気にすることじゃない」


 そう言って、せめてもの笑顔を作る。


 「ほんとに、そう思ってる?」


 不安そうな表情で聞いてくる岡後さん。


 僕は、答えられなかった。答えを持ち合わせていなかったわけではないのだけれど、その答えに自信が持てなかった。


 「ほんとにごめんね。私、知らなくていいこと知っちゃったね…」


 「それは、お互い様だよ」


 そこで会話は途切れた。僕は前に向きなおして、机に伏せる。そうしてチャイムが鳴るのを待ったが、やけに長く感じた。背中から、ちょっぴり寂しいような雰囲気を感じた。


 結局、あれから放課後まで一回も喋らなかったが、気まずくなるのは嫌だったから、僕は帰り際、校門前の別れ際でこう言った。


 「岡後さんと話してて楽しかったよ」


 そうして僕は、岡後さんに背を向けて、桜並木の道を歩き出した。



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